漆黒

□R O Y A U M E
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幾度か私は 安らかな死を半ば恋し
静かな息を空へ引き取る様にと
数多くの瞑想から生まれた歌で
死を 美しい名で呼んだものだ

そして今 その歌は消えた

幻か 白昼の夢であったろうか
ああ 目覚めているのか

眠っているのか



──John Keats『Ode to a Nightingale』





R.A.MT‐HC-VX side‐


R O Y A U M E
〜Au royaume des aveugles,les borgnes sont rois〜








「私や君のように遺失技術に頼らず、既に遺伝子の一部として組み込まれた…所謂"天然モノ"だよ。将来有望な人材だとは思わないかい、人形使い?」
「その写真の娘がそうなの?……接触テレパスねぇ…面白そうではあるけどね。それより、例の解読終わったけど。はい、コレだよ」
「ふむ、早かったね。あの飛行船の電動知性は旧友の遺産なのだがね、こうも早く解析されては…どうやら私の買い被りだったかな」
「一応、普通は大変なんじゃないの。それにしても、旧友の遺産使って"ついで"みたいな仕事するなんて、全く君らしいよ、イザーク」
「おや、心外だね。私はどの仕事も依頼主-クライアント-のご希望に沿える様、尽力しているつもりだがね」
「写真の娘だって独り連れて来ればいいだけじゃないか。どうして施設ごと襲わせるのさ」
「子供をやたらと欲しがっている別件の依頼主がいてね、まぁ集めてどうするのかまでは興味がないから訊いてはいないが…此方としてはこの娘が手に入りさえすれば、後は煮るなり焼くなり」
「"ついで"じゃないか……君って人は」

呆れたように肩を竦めた美貌の若者の隣で、黒ずくめの魔術師は薄い口唇を僅かに緩めた。

「さて……あとはキャストに演じて貰うとして、我々裏方は舞台袖に捌けるとしよう」
「大根じゃない事を祈るよ」
「幕が上がれば彼らが勝手に踊るだけさ。出来不出来は観客が決める事だ、我々じゃないよ」
「……ハナから期待してない口振りだねぇ、イザーク?」
「解るかい?」
「どうせオイシイ所はちゃっかり持っていくんだろう?…まぁいいさ、今夜は暇なんでしょ、チェスで勝負だ」
「君も懲りないね、人形使い」

……二人の楽しげな会話は、部屋を出て扉を閉めた後も暫らく聞こえていたが、遠ざかる靴音と共に次第に小さくなり、やがて室内は完全なる沈黙に支配された。


幕が、上がるのだ。









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