蜜蝋

□Nocturnal
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なんでもない普通の日
僕がいて君がいる
そこには小さな喜びがある

やがて消えゆく普通の日
僕も君ももういない
それでもそこには

小さな喜びがある





Matt & Mello


Nocturnal





12月13日 午後11時

自室で勉強していたメロは、同室の子の就寝に合わせ、独り裸足で部屋を抜け出した。

右手に本、左手にランタンを下げ、肩には毛布を一枚引っ掛けただけ。


……今日のテストでもニアが一番だった。

手なんか抜いてない、でもまだ足りない、報われない。
けれどその"いつか"の為に、僕は努力を惜しまない。
努力すれば叶わない事はないのだ、いつだってそうだった、神様も見てくれているのでしょう?




図書室の扉を静かに開けて、閉めた。

いつもの席に座ろうとそちらへランタンを向けて、ぎょっとした。

誰もいない筈の真っ暗な部屋、机に突っ伏すような形で人影が見える。

メロは恐る恐る近付き、その見覚えのある顔に溜息を吐いた。


「……マットかよ」


そう言えば今日の授業、午後からマットの姿が見えなかったが……
まさか此処でずっと寝ていたのだろうか。

「マット、おい、」

ランタンを机に置き、寝ているマットの肩を揺らすが反応は無い。
仕方がない、とメロは自分の毛布をマットに掛け、向かいの席に座ると本を開いた。





11時45分

目瞼に灯りを感じて、マットは目を覚ました。
肩には毛布が掛けられている。

顔を上げると、向かい側ではメロが頬杖を付いたまま居眠りをしている。


……しまった。

このままでは椅子の下に用意したプレゼントを今日中に渡せない、何やってんだか俺は。

煙草をくわえてライターを探す。
いっそランタンの火で点けようかと手を伸ばすと、メロの首がガクンと落ちて慌てて手を引いた。


……目は覚ましていないようだ。


時折顎が手から離れそうになるのを反射で戻すメロの仕草が可笑しくて、マットは煙草をポケットに戻し、音を立てないよう静かに立ち上がると、毛布をメロの肩に掛けてやる。


オレンジ色の灯りにゆらゆらと揺れるメロの寝顔を、マットは飽きもせず眺めていた。


長いこと、眺めていた。





誕生日、おめでとう。













fin.



2007.12.13

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