蜜蝋

□南龍生堂日報
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「ツヨシ〜烈て〜」

階下から自分を呼ぶ声がして目が覚めた…あのババアは朝から何の用やねん…休みの日ィくらい放っとけっちゅうの。

「烈あんた居るんやろ〜、なぁツヨシ〜」
「何やねん!」
「おかぁちゃんちょっと出掛けて来るからあんた店番頼むわ〜」






南龍生堂日報





「…いらっしゃい」
「アラ、ツヨシちゃんやないの。店番かいな。なんやそうしとたら若旦那な感じすんなぁ〜てアンタ免許もないのに白衣着て!」
「ちょっとだけやん。おばちゃん何買いに来たん」
「旦那に胃薬買うて来て言われたんやけど」
「二日酔いかな…コレ俺も使うたけどよう効いたで」

……ウチは南龍生堂ゆう薬局やねん。
薬局云うてもそこらのコンビニ風ドラッグストアみたいなんと違うて…なんやよう解らんくっさい粉とか…漢方やな、そんなんも扱うとる。
勿論市販の風邪薬やらなんやらもあって、近所にドラッグストアがないここいらでは、まぁそれなりに客もおる…大半が小さい頃からの顔馴染みやねんけどな。

「有難うございました〜いらっしゃいませ〜」
「!、南やん、ラッキー♪」
「おう、岸本…」

岸本はニヤニヤしながらカウンターに近づいて来た。

「キレてもーたの、ア・レ」
「…こないだも俺が店番の時に買うてったやろ、何箱も。アレでウチのおかん"アンタちゃうのー"て変な勘繰りしとったやんけ。おかんが店番の時に来いや」
「いやや、南のおかんから買うたらウチのおかんに云われてまうやんけ、お前が店におらん時は余所で買うてるわアホ」
「…いつものやな」
「ストロベリー味で」

なぁにが、"ストロベリー味"でやねん、オマエが舐めるワケちゃうのに。



大学へ入ってから、岸本はオンナに目覚めてしもた。
なんやアホみたいにソレの事しか考えてへん。モテへん男の誰もが通る道やんな、ほんま猿やわ。
学部が違うのもあって、高校みたいにつるんでる事も少なくなった。

……俺はバスケ部には入ってへんし。

その時、店のあちこちを見ていた岸本が、不意に切り出した。

「今夏のインターハイ、観に行かへんのんか」
「……何や急に」
「豊玉は予選で負けてしもたけどな、昨年の覇者、土屋んトコの後輩やら…陵南の仙道も最後の夏やしな」
「おい猿、ごまんえんになります」
「誰が猿やねん。あとホレ、湘北も出よるで」

レジ打ちをする俺の手ぇが止まる。湘北。

「センターあの桜木らしいで。観に行きたない?」
「おつり」
「ナガレカワが今夏こそ高校No1かも知れんで」

…ナガレカワ…!
俺の手ぇがまた止まる。

岸本はニヤニヤしながら店を出て行く。出て行きしがなに、振り向いてこう言った。

「南もズル休みせんと、顔出しぃ。また皆でやろうや」



店の中が静かになった。

俺はじっと掌を見る。

……大阪得点王。

岸本、俺あそこで自分は燃え尽きた思うとった。なんか…終った気ぃしてたんや、俺の中で何かが。

終ってへんのんか?

まだバスケやってても…ええんかなぁ…





「ツヨシ〜ただいま〜。お昼冷やし中華でええか〜ってあんたこれから出掛けるんか?…ジャージ着て…」



何処でだって誰とだって、なんでだってええんや。
資格あるとかないとか、もうあんま小難しい事考えんと、好きなモンを好きにやったらええんや。

まぁた俺忘れてたわ、バスケって楽しいモンやった。

そうやんな?北野さん。





「岸本!1on1の相手せぇ」













END.
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