蜜蝋

□迷路-verlaufen-
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[The prisoner of light] Roberto Matta


今すぐ殺して
私を殺して

憎い貴方のその御手で
汚い言葉で罵って

哀と呼ぶなら蔑みを
愛によく似た憐れみを





L×月(kira)


迷 路
verlaufen







「何か言ったか?竜崎」

「いえ、何でもありません」

聞こえていないふりをしたのを気付かないわけがない私だと知っていて、それでも聞き返す貴方に、これ以上何を言えば良いというのか。

二度目は永劫ありません。
それすらも、解っている貴方に。

目が合った。

「……仕方ないですね、はい」
彼の目の前へ、金平糖の袋を突き出す。
「…何だよ」
「月くんだから特別に」
「だから、何」
「見てたじゃないですか」
他意はなかったけれど、含みのある響きに取られてしまったか、彼が数瞬戸惑う。

「……いらないよ」

呆れた様な顔。

「そうですか」

そして私達はまた無言に戻る。


そう、"次"なんてものは永劫存在しないんです。
私と貴方の間には、殊更ね。

「覚えていますか?我々が手錠で繋がれていた時の事を」

貴方であって貴方でなかった、あの不自由で不可思議な幾つもの朝と夜。

「覚えてますかって…そんな昔の話じゃないだろ」
「世間話と思って付き合って下さい」
「………覚えてるよ、当たり前だろ」

お互いに今は跡すら残っていない手首に目を落とす。

「非常に不便でした」
「お前が言うなよ」
「トイレとお風呂が開けっ放しなのが一番辛かったです」
「思い出させるなよ…」
「でも楽しかったですよね」
「全然、まったく」
「楽しかったですよ」

何故今こんな事を思い出しているのか、自分でもよく解らない。
貴方はもっと解らないでしょうけれど。

…そうだ、最初はトイレで揉めたんでしたっけ……





『…竜崎』
『はい?』
『トイレの中まで付いてくる気か?』
『はい』
『僕はドアの外で待っていただろう!なんでお前は中まで付いてくるんだ!』
『いけませんか?』
『駄目だ、出てけ』





「…何思い出し笑いしてるんだよ」

不機嫌な貴方の声に呼び戻された時、新しい紅茶がカップに注がれているのに気付いた。

「あ。有難うございます…私笑ってました?」
「どうせトイレか風呂場の…」
「お風呂場はこれからです」
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