蜜蝋

□魅惑-behexen-
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[十字架の聖ヨハネのキリスト] Salvador Dali



天におわし
地におわし
全世を統べる我が君よ

頭を垂れ膝をつき
月の灯りに照らされて
貴方の靴に掌に
毒を孕んだくちづけを

夜霧に凍る指先で
なぞる死の淵 とこしえに

恋しかるらむ
神のまにまに





照×月(kira)


魅 惑
behexen








羽音がする。

仰ぎ見れば外灯に一匹の蛾。
光に吸い寄せられ不規則にぶつかりながら、∞(レムニスケート)の軌跡を描く。

あれは私。

与えられた漆黒の翼、毎夜穿つ正義の楔。
光の眩しさに請い焦がれもがきながら……私は永劫、貴方がくれる賛辞だけを求め続ける。

「神……」

私は私の肩を抱く。

嗚呼、神!

私は貴方の忠実な僕、私の善は貴方と共にある!

貴方こそがルールの守護者、世界はやがて新たな秩序で充たされる、その楽土の何という美しさ!


今生で神に逢えた。

私は聡明な使徒でなければならないのだ。
神が私をお選びになられた…やはり私は私を信じて良かったのだ。
私の正義は正しかった事が証明された。

……もうそれだけで、私の魂は救われたのです。





ホテルでの密会を重ねる日々は、紛れもない至福のひとときで御座います。

神は知らないでしょうけれど私はいつも上京する新幹線の中で神からの着信履歴や保護したメール…ああ、これは啓示と呼んでいるのですが、それらを飽きる事なく眺めているのです、勿論脳内では音声変換済みです、そしてこれを送信している若しくは携帯に耳を押し当て私が出るまでの間を待っている貴方の表情を想像しては…溜息と共に携帯をそっと胸や口唇に押し当ててみるのです。

啓示のみならずこうして直接神の麗しいお姿と甘やかなお声に触れられ……

ああ本当に、神は私の想像以上でした。

柔らかそうな薄茶の髪、全てを見透かす双眸から流れてくる視線、形良い口唇に添えられた細く長いしなやかな指の1本1本がまるで私を誘う食虫植物の如く蠢いて………



「……魅上?」
「え…あ、はい」
「聞いてなかったのか?」
「も、申し訳ありません」


しまった…!

あまりにも神が神過ぎて見つめてるうちに自分でもワケが解らなくなってしまった………

失態を取り返さねば!
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