蜜蝋
□在処
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───良く晴れた日の十三番隊舎。
朽木ルキアはいつもの様に執務をこなしていたが、午後の柔らかな日差しが文机に向かう背に当たり、心地良い微睡みに襲われる。
……これではいかんと睡魔から逃げるよう首を振り、ルキアは書類の山に手を伸ばした。
十三番隊長・浮竹十四郎は、そんなルキアに苦笑しつつ、茶を淹れた湯呑みの湯気越しに声を掛ける。
「朽木、もう今日はいいから」
どきりとしたルキアが慌てて頭を下げる。
「もっ申し訳御座いま…!」
「いやいや違うよ、叱っているのではなくて」
空いている片手をひらひらさせながら茶を一口啜った浮竹は、窓の向こうの青空に視線を移す。
「寝ていないのだろう?」
図星ではあったが、その響きに込められた優しさに気付いたルキアは、浮竹につられる様に空を見上げた。
……白哉がルキアを庇って大怪我をしてから、ルキアは一日もまともに眠れない。
未だ回復せぬ白哉を思うと、いてもたってもいられない。
陽の眩しさにルキアが俯くのへ、浮竹は穏やかに告げた。
「白哉に付いててあげなさい」
白哉×ルキア(緋真)
在 処
ーone's hiding placeー
病室の前には、朽木家の使用人達が待機していた。
ルキアの姿を見るなり、慌てて駆け寄り膝を付く。
「お嬢様、いらっしゃるのでしたら迎えを差し上げますのに…」
「良いのです、私が勝手に来てしまったのですから」
平伏する使用人達に顔を上げさせ、ルキアは閉ざされた病室の扉に向き合った。
「中へ…入れますか?」
「は?いえ、白哉様は未だ…」
「傍に、」
意識のない兄を見舞ったとて、自分に出来る事など何もない。解っている。それにもし意識が戻ったとしても兄ならば、職務を怠るとは何事かと、今直ぐに戻れと、そう追い返すに違いない。
解っている。
「お傍に、いたいのです」
絞り出した声は自分でも思う程に情けなく、だが小さなそれは使用人達の耳にも確かに、届いた。
……兄は、静かに横たわっていた。
音をさせぬよう扉を閉めたルキアは、広く清潔な病室の中央、目を閉じたままの白哉の傍らへと近寄った。
兄の躯のあちこちから線が伸び、壁際の機械へと繋がれている。
見える所は総て包帯で覆われていて、辛うじて顔の一部が確認出来るだけだ。
ルキアは震える指で兄の顔に掛かる黒髪を払った。
私の為に怪我をして、こんなにやつれて……
震えているのは心だと知った。
「……兄様、」
名を、呼んだ。
繰り返し、繰り返し呼んだ。
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