蜜蝋

□在処
1ページ/3ページ

───良く晴れた日の十三番隊舎。

朽木ルキアはいつもの様に執務をこなしていたが、午後の柔らかな日差しが文机に向かう背に当たり、心地良い微睡みに襲われる。
……これではいかんと睡魔から逃げるよう首を振り、ルキアは書類の山に手を伸ばした。

十三番隊長・浮竹十四郎は、そんなルキアに苦笑しつつ、茶を淹れた湯呑みの湯気越しに声を掛ける。
「朽木、もう今日はいいから」
どきりとしたルキアが慌てて頭を下げる。
「もっ申し訳御座いま…!」
「いやいや違うよ、叱っているのではなくて」

空いている片手をひらひらさせながら茶を一口啜った浮竹は、窓の向こうの青空に視線を移す。
「寝ていないのだろう?」

図星ではあったが、その響きに込められた優しさに気付いたルキアは、浮竹につられる様に空を見上げた。

……白哉がルキアを庇って大怪我をしてから、ルキアは一日もまともに眠れない。
未だ回復せぬ白哉を思うと、いてもたってもいられない。

陽の眩しさにルキアが俯くのへ、浮竹は穏やかに告げた。
「白哉に付いててあげなさい」





白哉×ルキア(緋真)

在 処
ーone's hiding placeー






病室の前には、朽木家の使用人達が待機していた。
ルキアの姿を見るなり、慌てて駆け寄り膝を付く。

「お嬢様、いらっしゃるのでしたら迎えを差し上げますのに…」
「良いのです、私が勝手に来てしまったのですから」

平伏する使用人達に顔を上げさせ、ルキアは閉ざされた病室の扉に向き合った。

「中へ…入れますか?」
「は?いえ、白哉様は未だ…」
「傍に、」

意識のない兄を見舞ったとて、自分に出来る事など何もない。解っている。それにもし意識が戻ったとしても兄ならば、職務を怠るとは何事かと、今直ぐに戻れと、そう追い返すに違いない。

解っている。

「お傍に、いたいのです」

絞り出した声は自分でも思う程に情けなく、だが小さなそれは使用人達の耳にも確かに、届いた。








……兄は、静かに横たわっていた。

音をさせぬよう扉を閉めたルキアは、広く清潔な病室の中央、目を閉じたままの白哉の傍らへと近寄った。

兄の躯のあちこちから線が伸び、壁際の機械へと繋がれている。
見える所は総て包帯で覆われていて、辛うじて顔の一部が確認出来るだけだ。

ルキアは震える指で兄の顔に掛かる黒髪を払った。
私の為に怪我をして、こんなにやつれて……

震えているのは心だと知った。


「……兄様、」


名を、呼んだ。

繰り返し、繰り返し呼んだ。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ