千歳

□桜花乱舞〜参〜
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突如迷い込んだ異世界に戸惑いながらも、同心・上野浩二郎に助けられ、JOEに瓜二つの彼を前にし、身代わりとは知りつつも契りを交わしたRicky。
その胸に去来するのは、嘆きか、それとも…






桜 花 乱 舞〜参〜





「あっそうか!三井サンが興した日本橋の呉服屋…越後屋さんって三越の事だったんだ!」
浩二郎さんが仕事に出ている間は決まって暇なので、僕はこの世界を理解しようと日本史の教科書を思い出しながら時間を潰した。
1人で外出するなと言われていたし、掃除をして洗濯をして…
「主婦って退屈だなぁ…だから昼メロ観るんだな…TVか…観たいなぁ〜!」

僕は畳に突っ伏してあれこれ考えた。
JOE…心配してくれてるかな…仕事はどうなってるんだろ…皆…ゴメンネ。
目蓋を閉じると、ここに居ても、あのまばゆいライトの熱をはっきりと感じる…僕の記憶に刻まれた熱を。
光の洪水、地鳴りの様な歓声、JOEのドラムが僕の鼓動と重なり、それから…

「そういや俺…こっち来てから歌ってないや…」
今更の様に思い出して、嘲笑を浮かべた。
これが僕か。
こっちへ来てからというもの、まるで自分の欲望の事しか考えてない。
あげくJOEは心配してくれてるだろうかだって?まだ期待してるんだ。
これが、僕だ。
「嫌なヤツ…」

僕自身の醜い感情とはうらはらに、浩二郎さんとの暮らしは幸福だった。
まっすぐで男らしい彼には、同心という仕事が天職の様に思えたし、以前の地位から降格されたとはいえ、自分に誇りを持っているようだった。
仕事の話をする際の彼の目は輝いて、僕がにこやかに頷くと決まって彼も微笑み返してくれた。
僕達は幸福な恋人同志だった。
いや、正しくは、幸福な恋人同志に見えた……

毎夜、彼の腕の中で眠るうちに、僕は説明のつかない感情に苦しんでいた。
陽炎への嫉妬かも知れないと気付いたのは、いつだったか…

「…んっ…アッ…」
僕の躰は浩二郎さんの与える愛撫に、敏感に反応を返すようになった。
その中で気付いてしまった彼の癖…多分彼も無意識なんだろう。
おそらくは陽炎との情事の最中に必ずしていて…それは陽炎が求めた快楽のツボの様なもの…陽炎が感じた箇所。
攻めて欲しいと懇願した箇所。

「…ッ…あっ…うぅ…」
僕は喘ぎながらも涙を堪えるのに必死だった。

だって彼はまだ1度も…
僕の名前を呼んでくれた事はないのだから……





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