千歳

□桜花乱舞〜九〜
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吉田の酷い仕打ちに宏三郎と共に虐げられ、砕けそうな精神(こころ)をやっとの思いで 保っていたRicky。
そんな彼に紀伊徳川からの使者・八尋により吉報がもたらされる。
明日へ続く夕闇を見上げながら、浩二郎へと想いを募らせるのだった。






桜 花 乱 舞〜九〜





フランス王朝ルイ14世の治下、江戸では十数年前に大火が起こり、その際江戸城の本丸・二の丸は共に焼失した。
その後も天守閣は再建されなかったが、本丸の殿舎は修復された。
無論、各藩がこぞって出資をしたわけだが、とりわけ紀伊徳川家がその惜しみない財力を奮い尽力したのは、後の世に将軍を2名排出した経緯からも明らかである。
ある意味寄付という名の徴収ゆえに、紀伊も財政的に苦しくない筈はないのだが、表面上からは微塵も感じさせなかったという。
恐らく、すこぶる頭のキレる会計参謀が代々いるのではないかと、近隣の各大名及び江戸城中で話題になっていた。


さて、伊予から戻った八尋は、城を開けていた間の雑務をかたす一方で、神吉への報告文を出すのも忘れなかった。
さらに紀伊での宴を自ら提案した手前、招待客の選別から出席有無の確認、会場の下準備等の全てに於いて指揮を取らねばならず、猫の手も借りたい状況に他ならなかった。
諸大名を招いての公式な宴ゆえ、紀伊の名に恥じぬ盛大な宴にしなければならない。
しかもその場にどうやって上野を忍び込ませ、本意をこの城にいる誰にも知られずにやり通すか……恋人達の為に。
やらねばならない事は沢山あったが、八尋は薄い口唇に穏やかな笑みを乗せ、独りごちた。
楽しみだな、と。

若く有能な紀伊の美豹が、悪だくみに内心ワクワクしている頃──



──江戸・神田。
神吉は、八尋が伊予からの帰り道でしたためた文を握り締め、浩二郎の元を訪れていた。
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