撫子

□海上眺望
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「最近、サザキに避けられてるような気がする」

夜遅く、カリガネの部屋を尋ねた千尋は腕組みをして眉根を寄せた。
そんな千尋を見たカリガネは、わざと大仰な溜息をひとつ吐いた。
「……気のせいだろう」
「違う。話し掛けようとしてもどっか行っちゃうし、さっきの晩御飯の時なんて目も合わせてくれなかった」
……確かに、ここ最近サザキは千尋と一緒に居るよりも、仲間と酒盛りしていたり、独りふらふらと飛んでいく姿をよく見掛ける。

「何かあったのかな?」
「……本人に訊け」
「訊こうとしても逃げられるからカリガネに訊いてんの」
「心当たりは……無い事も無い」
「えっ!?」

カリガネは細い指を顎に充てて思案した。
暫しの沈黙ののち、ふと思い立って千尋の腕を引く。

「カリガネ?」
「来い……サザキを捜す」




船内の色々な場所を捜したがサザキの姿を見つける事は出来ず、カリガネと千尋は暗い甲板に出た。
「うわぁ…海が真っ暗」
昼間はあんなに美しかった海が、今は空との境界線が解らないほど闇一色。
ともすれば人の声に似た風の音と、波間を縁取る白い泡が浮かんでは消え、千尋は微かに身震いをした。

「……寒い」
「…………」

カリガネは視線を宙にさ迷わせ、ある一点で留めた。
帆を張る柱の先端、一番高い場所で、焔の色をしたサザキの髪が風に揺れている。

それを確認したカリガネは千尋の腰に両腕を回し、抱えるように抱きすくめる。
「ちょ、カリガネ?」
「掴まれ」





サザキは、柱の先端に胡座をかき、自分の膝に頬杖を付いて遠くを眺めていた。
幾ら飲んでも一向に酔えない理由は解っていたし、様子が変だと千尋にも感づかれている。

「このままじゃ駄目だよなぁ……」

虚ろな目で呟いてみたが、うまい解決案も出ず、どうしたものかと溜息を吐いた時、背後に気配を感じて何の気なしに振り向き……千尋と目が合い大声を上げた。

「ぎゃあ!」

……危うく落ちそうになった。
羽があるから落ちるワケもないのだが、サザキは慌てて態勢を整え、次いで千尋の背後に…いや背後というか、千尋の身体を抱いているカリガネに気付いた。

そう、抱いている。
腰に両手を回して。
何という事態。
千尋はと云えば落ちないよう、必死でカリガネの首に腕を巻き付けている……俺ですらやって貰ったことないのに!

沸騰寸前な頭をどうにか制したサザキは、涼しげなカリガネの顔を見て思わず指を差す。
「カリガネ!お前!ななな何を…!」
「千尋と話せ」
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