撫子

□黄金日車
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子供の頃、「先生は大人」だと思っていたが、実際に自分があの頃の先生と同い年になって初めて、そうじゃなかったんだと思い知る。
学校は職場で、日々を追われ、思っていたより自由が利かなくて、描いていた夢は妄想に過ぎなくて……

(あと"先生"にも、好きな子がいたんだな)

生徒達の知らない所で、先生も恋愛をしてる。

(香穂ちゃん……いつから逢ってないんだっけ)

"先生"である自分が恋をしているのが凄く不思議に思えた。先生だって人間だから恋愛もするんだろうけど、子供の頃に"先生"と呼んでいた沢山の大人達も、こんな風に逢えない誰かを想って切なくなったり、毎日に不安を感じたりしていたのかも知れないと思うと……不思議な気持ちになる。

("先生"も悩んで良いんだよね…?)

本当は個人の恋愛で頭を悩ませている場合ではなくて、来週から始まる夏休み中の生徒の生活指導や、終業式前にある開校記念祭での教師による出し物の事や、夏休み明けテスト作成の為の資料作りや……それから…………

「あー!もう!」
火原は頭を振ると再度、長い長い溜息を吐いた。





「火原先生」

昼休みの職員室、火原の向かいに座る同僚の女教師・菜々子が声を掛けて来た。

「開校記念祭どうします?黒羽先生と天根先生は漫才やるんですって」
「漫才!?なぁんだ俺てっきりスピーチとかそういうお堅いヤツやらされんのかと…悩んで損したぁ〜」
「ふふ、余興ですもの。火原先生は何か特技あります?」
「うぅ〜ん…特技か…菜々子先生は去年何をやったんですか?」
「私?去年は確か……ピアノを、」
「えっ!菜々子先生ピアノ弾けんの!?」
「ええ……」
「はい!俺トランペットやる!」

職員室で子供のように勢い良く手を挙げた火原に、菜々子を始め教師達は笑顔で手を叩いた。

開校記念祭まであと5日。
そうと決まれば早速練習だが、夜遅くにアパートで吹くわけにもいかず、出来れば学校が終わって生徒達が下校したのを見計らい、音楽室か何処かでこっそり練習したい。
当日、生徒達にカッコイイ所を見せる為にも!

「よし!頑張るぞ!」







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