漆黒

□C O N T A S
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"方舟"には、人類のこれまでの文明の利器を遥かに凌ぐ超テクノロジーが搭載されていた。制御システムもその一部だ。
「今のままじゃダメだ。セス、制御系統をリアクション・コントロール・システムに書き換えてくれ。出来るか?」
「……アベル、ボクを誰だと思ってる?」

技術開発部責任者、セス・ナイトロードは、まるでピアノでも弾いているかのような指さばきで、画面に次々と数字を入力してゆく。目を数字に向けたまま、背後にいる三人に声を掛ける。
「しばらくかかると思うから、お茶でもしててよ」
カインは微苦笑を浮かべつつ、席から立ち上がった。
「10年以内で頼むよ、ナイトロード少佐」
「解ってますよ、大佐。あー、もうひとつ。クラスターに積むエンジンは、帰還船のスクラムジェットエンジンを修復して使用、でいいね?圧力損失を減らし、熱負荷も軽減する、しかも一度に沢山運べる…皆で一緒に還るんだろ、アベル兄さん?」

自分に振られると思っていなかったアベルは、会議室を出て行きかけて足を止めた。視線を感じて振り返ると、相変わらず背を向けたままのセスの代わりに、金髪の青年と褐色の肌の美女が、こちらを向いて穏やかに笑っている。
アベルは照れたように頭を掻くと、二人につられて笑顔を返した。



会議室を出た三人は、白く長い通路の突き当たり、要人用エレベーター前で立ち話をしていた。
「じゃあ私達は宇宙船内部に着手しましょうか。アベルは機械区と連結部をチェックして。カインは……」
「操縦区だね」
「独りじゃ無理よ、私も手伝うわ」

リリスの台詞に、僅かだがアベルは眉を上げた。出来るだけさり気なく提案する。
「……居住モジュールはどうする」
丁度エレベーターの扉が開き、リリスが先に乗り込んで照合システムに手をかざしながら、カインの後に乗り込んできたアベルを振り返った。
「大丈夫、エリッサにお願いするから…彼女がプロジェクトに再志願してくれるなんて思わなくて、嬉しさ半分、複雑半分、て感じだったけど…今此処に彼女がいてくれて本当に助かったわ。─リリス・サール、認識UNASF94-8-RMOC-666-00-ls」
『パスを確認しました。これよりRMP地下中枢センターへ降下します…』





火星の地下に、こんな大規模な軍用施設が建設されていた事は、一般植民団には知らされていない。
万が一の為に、軍関係者のみが避難する非常用シェルターとして当初は作られたが、ナイトロード三兄妹によってシステムを改竄され、今は膨大な電動知性・CPUの格納庫、何千とあるドームのコントロールセンターとなっている。

そこに、"方舟"も運びこまれていた。
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