漆黒

□SALOME
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【第一場】



盛大なる宴。
極上のワインを片手に上機嫌なヘロデ王。
だがその視線は義理の息子であるサロメに注がれ、好色めいた艶を放つ。

月光を浴びた王子サロメは、また一段と美しかった。七色のヴェールを一枚ずつその細身に纏い、さながら月から舞い降りた天女の如き姿であった。
またサロメは、自分が美しいことをよく知っていた。

夫の腹の内を見透かしている妃ヘロディアスは、諫めるでもなくせせら笑う。

列席した貴族らは皆それぞれ、今しがた王が飲んだ各国の酒の話や、ユダヤ人があちこちで白熱した宗教論争に花を咲かせているのを、遠巻きに眺めてはひやかしていた。

その喧騒から少し外れた位置から、衛兵隊長と王の小姓、二人の若者が肩を並べ、月を眺めていた。

ラドゥ 「今宵の月は見事な美しさだ」
イオン 「……不気味な月だ。まるで死人のようではないか」
ラドゥ 「いかにも美しいな、今宵のサロメ王子は」
イオン 「よせ、王子を見てはならぬ、度が過ぎるぞ」
ラドゥ 「王の小姓のくせに、私に嫉妬してくれるのかい?…可愛いね」
イオン 「ナラボート!」
ラドゥ 「それにしてもサロメ王子は美しい。黄色いヴェールに銀の足。銀の鏡に映る白薔薇の影のようだ」

……その時、地下深くから、預言者の呪咀にも似た響きがやって来た。皆、宴に夢中で誰の耳にも届かないが、"其れ"は確かに、宵闇の風に乗りやって来た。

ケンプファー 「…私の次には、私よりも力のある"あの方"が来る。滅多に靴紐さえ解かせては貰えないような方だ。"あの方"が来れば砂漠は喜び、花は百合の如く咲き乱れ、目盲は日の光を見、聾唖も聞こえるようになるだろう。竜の洞に手を掛け、獅子の立て髪を掴んで引き廻す赤子すら生まれるであろう……そう、"我が君"が、救済の炎もて世界を更新せん」






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