ロニ

□Thanks SS
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だっていつでも俺は、お前を包んで居たいから。






今日だけな。










「ん、そろそろ…電気消していいか?」

「うん」



と言ったのはいいけれど、部屋の電気はとっくに消されていて。

布団に潜り込んでいた俺たちは、ただいつものようにしばらくの間戯れ合っていただけ。


一段落して彼女の了承も得た俺は、代わりにベッド脇にあるスタンドへと手を伸ばした。



カチ、と小さな音を立てて部屋は真っ暗になる。


目が慣れていないせいか、まだ近くにいる彼女の顔さえ伺えない。


仕方なく手探りで、いつものように俺はその頭を軽くペシペシと二回、叩いた。



「ほら、頭」



それは、腕枕の合図。

頭を上げるよう催促して、差し入れた腕で彼女を頭から抱き寄せる。



筈、だったのだけれど。



「おーい…?」



今夜は一向に頭を上げる気配が無い。



「やだ。今日は私が腕枕する」



段々と輪郭から捉えられるようになった彼女は、その唇からそう紡いだ。


思わず、は?と聞き返す俺に、いつもされているように…いや、それより少し強い気がするのは気のせいか?

とにかくその手は俺の頭をペシペシと叩いた。



「ほら。あ、た、ま!」

「いやいや…んな事言っても…それじゃ俺の立場が…」

「たまには私がロニの頭ぎゅってしたいの!ね?だからほら!」



さっきよりも強くベシベシと俺の頭を叩く彼女に、仕方なく折れた俺は頭を上げた。


そっと降ろした頭に、その腕の骨の感触が伝わる。


俺とは比べものにならない細っこい腕。

折れてしまうんじゃないかと頭の体重なんてとてもじゃないが恐くて預けられない。


それに気付いたのか、すぐに彼女は顔だけ横に向けて俺に向かって口を尖らせる。


近いその唇が、ただキスを欲しがってるように捉える都合のいい俺。



「ちゃんと頭降ろして」

「腕折れちまうって」

「大丈夫だから!ちゃんと降ろしてくれないと、ぎゅってできない」



やっぱり恐かった。

けれど仕方なく、なるべく筋肉の発達した肩の方に頭を寄せて、俺はそっと頭の重さを預けた。



「重くねぇか?」

「大丈夫。ロニ、ほら」



いつも俺がするように名前を呼ぶ。

するといつも彼女は俺の方に身体を向けて身を寄せるから、俺もそっと彼女の方に身体を向けた。


さっきまでごねていたように、ぎゅっと頭を抱き寄せられる。


その柔らかな胸が俺の顎に触れている事を、本人は気付いてるんだろうか。

そんな事を口にしたら、今度はさっきよりも更に強く。今度はグーで殴られるかもしれないけれど。



「可愛い、ロニ」

「嬉しいような、嬉しくねぇような…」

「はい、おやすみ」



完全に俺の言葉を無視した彼女が、回した腕で俺の頭を優しく撫でた。


ふわふわと、感覚。


暖かい、母親のような感覚。


昔は俺も、眠る前にルーティさんに撫でてもらった事があるような気がする。




呼吸をする度に、少しだけ彼女の胸が上下する。


そのリズムさえ心地よく。




今日だけな。



口にはせず、暖かい腕の中で俺もゆっくり目蓋を降ろした。








End...
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