ロニ

□Thanks SS
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道程







「お付き合いしましょうか?」



無の時間。

時々思い出したように俺が酒瓶を置く音以外は、何もないような時間。


そこにふと、声と気配が割り込んだ。


その声だけで、姿を確認せずとも誰かなんて分かってはいたけれど。

できれば見ていたい。そんなちょっとしたきっかけで俺は見張り台へと昇ってきたそいつに目をやる。



「付き合えんのか?俺に」

「これでも結構いけますよ?」

「しょうがねぇな…。付き合って"やる"よ」



片手に持った酒瓶を傾けて、差し出されたコップになみなみと注いだ。


トクトクと液体の湧き出るような音だけが響きもせずに消えていく。

近くに屈んだそいつの温もりと気配がじんわりと濃くなってゆく。



増えていく。埋まっていく。


無の時間には得られなかったものが湧き出る。


それは感情であったり、上がる口端であったり…胸の中に広がるそわそわとした落ち着かなさであったりはするけれど。



たまに有るべき…無の時間。


けれど常にあって欲しいと思うのは、こんな何かがそこにある時間。


手を伸ばせる距離に居てほしいと思える大切な奴。



「私は並じゃあ酔いませんから」

「言ってろ。…ぜってぇ酔わしてやるよ」

「そしたら介抱するのもゾロだからね」



酔わねぇんじゃなかったのか?



話は既にお前が酔った話にすり変わって、それでも気付かずに笑ってるその表情を俺は実際よりもどこか遠い場所から眺める。


自分のどこか奥まった所に居る自分が、確実に頬を緩めた情けない顔で眺めてる。



刺激される内側の内側。



喉を鳴らして飲み下した酒でさえ、そこへ辿り着く事無く俺の水分として適当に拡散していくだけなのに。



酒を飲み込む俺を確認してから、そいつは真似をするようにコップを傾けて自分の中に酒を流し込んだ。


きっと俺と同じように、その中でも適当に消えてゆく液体でしかない酒を。



俺だってお前の内側に触れたいと、常々願っては止まないでいるんだ。


いつか伝えなければならないなら、今だっていいんだろ?



両手で抱えたそいつのコップを引ったくって、半分以上残った酒を一気に飲み干した。


そして俺は充血の兆しを見せる目を強く開いて、意を決する間もなく口を開いた。





言葉は、どこまで届くだろう。







End.

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