ロニ

□Thanks SS
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4ペナルティー






カツカツ...



軍基地の廊下。比較的静かなこの状態で、一人歩く廊下に自分のブーツの音だけが響く。


報告に向かう、カーティス大佐の私室。


軍人なのだからこんな事は言ってられないけれど、私はあの人が苦手だ。


はぁ。


人知れず、溜め息を吐いた…その瞬間。




グッ!

「なっ…!?」



強引に引かれた腕。

脇の扉から突然伸びてきた腕に、そのまま身体を引きずり込まれる。


反射的に、捻る身体。


「いっ…いてててて!痛い!痛いっ!」

「…ん…?」


思い切りそのまま腕を捻り上げると、聞こえてきた悲鳴にすぐにその手を解放する。

聞き慣れた声、そしてようやく捉えたその姿は。


「へい…」

「ワン、ペナルティー」


「陛下って呼ぶのは禁句だろ?」


半分涙目になりながらも、犯人の陛下はそう言って少しだけ、格好をつけた。


「何、してるんですか」


思わず洩らした溜め息に、子供のように陛下は不服そうな表情を浮かべる。


「驚いただろ?」

「あなたが居るのは知ってましたよ。宮殿からここに来るまでに何人が目撃すると思ってるんですか?」

「…ツーペナルティー。敬語も禁止」

「……今だけ、だからね」


わがままで、でも決して傲慢ではない。


誰にも言えない、不安定な関係。繊細で、大切な恋人。


「あー…痛い痛い」

「それは…私だって軍人なんだから、覚悟の上でしょ」


私の身体をその腕に収めながら、自分の腕を擦るその人はわざとらしい呻き声をあげる。

それでも微かに申し訳なく思う自分は、それに乗せられて抱き合う腕を少しだけきゅっと締めた。


「…痛かった?」

「…平気だ。誰かさん抱き締めてたら、治った」

「ば…」

「愛してる」



ばか。


そう紡ごうとした言葉も遮られて、腕の力を強めた彼から切なく届けられた言葉。

なかなか二人きりになれない時間を埋めるよう、熱く何回でも紡いでくれる。


「愛してる…」

「…うん、私も」

「…スリー、ペナルティー」


え?


ガラッと変わった声色。

思わず上げた視線に、至近距離で向けられたのはとびきりの笑顔。


「私も、じゃないだろ?」

「…愛してる…ピオニー」


満足したように頬笑む彼に、すぐに今度は言葉の代わりに熱いキスを貰った。

誰にも見つからないまま、誰も知り得ることの無い秘密のキス。



フォー、ペナルティー。


貴方に恋をしてしまったこと。







End.

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