ガイ

□Thanks SS
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それはまるで

俺の愛しい



クッキーに捧げるキス










「ね、ガイ」

「ん?」

「お腹空かない?」



まさにお昼時。


俺の傍で本を読んでいた彼女が、音もたてずに傍らに本を置く。



譜業装置を弄る俺に、影響のない僅かな距離を開けて


それでも傍に居たくて、道具箱を挟んだ距離に座って読書をしていた君が。



「あぁ、もう昼か…」

「うん。私、何か作ってくるね」



そう言った彼女が、立ち上がって俺の傍を離れようとする。


漂って、僅かに感じていたぬくもりが俺の傍を去る瞬間。


今まで彼女の居た空間に、ぬくもりとは違うただの空気が流れ込んだ。


それはまるで型の中にクッキーの生地を流し込むように。




思わず、俺の腕が伸びた。



ただ、それが嫌で。


君の席には、君の空間には、君だけを感じていたくて。



くん、と引っ張られた彼女が態勢を崩す。


握られた手を見つめて、それからすぐ、怪訝そうに俺を見る瞳。



「まだいいから…もう少し、傍に居てくれないか?」



我儘な俺の意志。

君がお腹を空かせているのは分かっていても、君の空間は他には譲れないから。


空腹を満たす事は出来ないけれど、君の口を満足させるようなキスを送るから。




やがて元の空間にその身体をピッタリと納めた彼女が、傍らの本をそっと開く。



数分前と同じ空間。俺と、彼女の空間が道具箱を挟んで隣り合う。




その距離を縮める俺。


君の意志はまだ聞いていないけれど



俺はそっと、淋しい君の唇にキスを落とした。



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