戦國ストレイズ
□甘い君
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「かさね殿」
柔和な声が降って来てかさねは振り返る。
そこには女子と見間違えるほどに、愛らしい容姿の青年が立っていた。
「五郎左さん」
かさねが、なんですか?と言うように首を傾げる。すると五郎左は実に言いにくそうに苦笑いを零した。
「殿があなたを寝所にお呼びですよ」
「何ィ!?」
五郎左の言葉に色めきだったのは内蔵助と犬千代だった。
「寝所に呼ばれたって、おま…!え!?こ、こいつを、信長様が寝所に?!」
「え?なになになに?どういう事??」
内蔵助は動揺表わにあわてふためき、犬千代は全く理解していない様子でひたすら無邪気に笑っている。
「それって、どういう事ですか?」
とりあえず冷静に対応してみる。昼間ならいざしらず、みんながこれから寝入る様な夜更けに呼ばれるなんて、意味深にもほどがある。
「いえ、私もくわしい事は聞かされていないんですが…、信長様があなたを呼んでくる様にと私に言付かりまして…」
「…」
「あ、でもそんな心配はいりませんよ!信長様は今までろくに女子を相手にした事ないですし…きっとかさね殿を寝所に呼んだのも何か理由があるからに違いありませんよ、あの信長様ですし…」
かさねが不安そうに五郎左を見ていたので、五郎左は慌ててフォローを入れる。
信長に女経験がないとは思わないが、真新しく入って来たばかりの、若い娘に手を出すほど、女癖は悪くない筈だ。
「…そう、ですよね!」
まだ少し不安げにしていたかさねだったが、五郎左の言葉で少し肩の力を抜いた。
「さ、かさね殿」
そう言って五郎左は笑顔で襖を開ける。どうやらさっさと行け。と言う意味らしい。
…どうやら自分に拒否権はないようだ。
重い足取りでかさねは五郎左達の部屋を後にする。犬千代は訳もわからず楽しげに笑い、内蔵助は相変わらずのしかめっつらでかさねを見送った。