戦國ストレイズ
□猫とお酒とやきもち
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「お祭り、ですか?」
「はい、城下で今夜祭があるんです。かさね殿も一緒にどうですか?」
「かたねも行こう!皆で行けば楽しいからさ!」
魅惑的な誘いにかさねはくらりとした。
思えばこの時代に飛ばされてからと言うもの、そういう些細な楽しみとか、娯楽とか無縁だった気がする。
今の待遇に不満があるわけではないが、やはり気分転換とかは欲しいと思っていたのだ。
まあ、前だったらいくら疲れてても、弟達の笑顔を見れば、そんな疲れなど吹き飛んでいたのだが。
「行きます!是非行きます!!」
返事はOKにきまってる。お祭りなんて浮かれた気分、久しぶりだ。
「決まりですね、では殿に少しだけお暇を貰いに行きましょうか」
「ふざけるな」
信長はぴしゃりと即答する。異議を受け付けない色を含んだ鋭い目が、かさね達を見遣った。
「何でですか!?」
「殿、かさね殿の近日の功労を思えば、ほんのいっときのいとま位、ご寛容なさってもよろしいのではありませんか?」
かさねと五郎左が食い下がるが、信長の視線は冷ややかなままだ。
「二度は言わん」
絶対の拒絶を含んだ声色に、犬千代はしゅん、とうなだれる。
「かたねが一緒に行けばきっと楽しいのに…」
「もう用は済んだであろう?ならばさっさと出ていけ」
そう信長に追いやられ、かさね達はこれ以上の反論も叶わず、信長の部屋から出ていく。
「ありえない!何でちょっと皆で出かける位許してくれないんだろ!?」
「しかも外出の許可を却下されたのはかさね殿だけですからね…」
「お前、殿のカンに障るような事、なんかやったんじゃねぇのか?」
「私は別に何もしてないよ!」
内蔵助の言葉にかさねは反論する。
あの傍若無人の俄道独走な殿の怨みを買った覚えはない。
ゆうなれば今のこの状況は理不尽な事なのだ。
「かさね殿が行けないのなら私達も祭は諦めますか…」
「えっ!?そんな!私のせいで行かないなんて悪いですよ!皆は祭に行って楽しんで下さい!」
五郎左の言葉にかさねは慌てる。祭に行けない今の状況は五郎左さん達とは全く関係のない話だ。だから自分のせいで祭に行けないなんて嫌だ。
皆には皆で楽しんで来て貰いたい。
「でも私達だけで楽しむなど…」
「本当そんな気を使わないで下さい!私全然平気ですから」
祭に行けないのは心の底から残念だが仕方がない。
「だったらこいつに土産の一つでも祭に行って買って帰りゃいいじゃねぇか」
内蔵助の一言に五郎左はぴたっと止まる。
「内蔵助!あなたたまにはいいこと言うじゃありませんか!」
「たまにってなんだよ!」
「お土産ー!かたねお土産何がいい?」
「え?何でもいいですよっ」
「じゃあなんか食い物買ってこよう!」
「帰る途中でお前が食うだろ!却下だ!」
三人のやり取りを見ながらかさねは微笑む。
祭にはいけないが、私は三人の帰りを楽しみに、城で待ってるのも悪くない。
「かさね殿…」
気遣う用に五郎左がかさねを見遣り、かさねは心配をかけまいと笑みを浮かべる。
「さ!みなさん、私の分まで楽しんで来て下さい!」
そう言いながらかさねは五郎左達の背を押す。
「…わかりました。じゃあお土産、楽しみにしててくださいね」
「はい!」
かさねは笑顔で五郎左達を見送った。