戦國ストレイズ

風邪
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「信長様!いい加減にお起き下され!」

時はすでに昼下がり。
信長の寝所に佐渡の怒号が響く。
一組の布団の中に、頭まですっぽりと布団をかぶって信長が寝ている。

「織田の当主たるもの、そのようなていたらくでいかが致しますか!」

「佐渡、煩いぞ…」

腹の底から押し出したような声で信長が言うが、しかし佐渡は聞く耳を持たない腹持ちらしい。

「いい加減にしなされ!」

そのまま信長の被っている布団を取り上げる。

「信長様…?」

いつも以上に眉間に皺を寄せ、息もどこと無く荒い信長の様子に、佐渡は驚く。

「信長様!いかがなされました!信長様!」






「間違いなく風邪ですね」
かさねが信長の額に手を翳しながら言った。
あの後、この世の終わりでもきたのかと思う程に佐渡はあわてふためき、騒いでいた所を偶然かさねが見かけ、一体どんな様子か見に来たのである。

「風邪!?ただの風邪か?!それはまことであろうな娘!」

「間違い無いですよ。でもまあ、お医者さんくらい後で呼んで、お薬貰った方がいいと思うけど…」

「ならば直ちに街医者を連れて参れ!」

佐渡は部下の一人にそう言い付ける。なんだかんだ言っても、やはりこの人も殿様が心配なんだ。

「…」

「殿様、大丈夫?辛い?何か食べれそう?」

怠そうに寝返りをうつ信長に、かさねは出来るだけ優しく問い掛ける。

「信長様!どうですか!何か所望はございませんか!どこがお辛いのですか!起きれますか!!」

かさねを押し退けながら、佐渡が信長の間近で声を荒げる。
かさねはその音量に思わず耳を塞ぐ。

「…佐渡…一つ良いか」

「はッ!何なりとお申し付け下され!!」

「出てけ」


ぴしゃりと佐渡を追い出し、かさねと二人きりになった空間で、信長は微かにため息を吐く。

さっきの殿様に出ていけ、と言われた時の佐渡さんの心底ショックをうけたような表情を思って、かさねは少しだけかわいそうな気がしないでもなかったが、今の殿様の近くにあんな人が居たら、余計風邪が悪化するだろう。
まあしょうがないか、とかさねは佐渡への思考を断ち切り、ちらりと布団に横たわる信長を見る。
決して弱音は吐かないが普段より熱を帯びた荒い息使いが、信長の辛さを物語っていた。

「はい」

用意してもらった冷えた井戸水を、手ぬぐいに湿らし、その湿らせた手ぬぐいを信長の額にかける。

「気持ちいいでしょ?」

「…」

信長はどろんとした目で一瞬かさねを見、すぐに視線を外した。

「何か食べれる?」

「…何もいらん」

「駄目ですよ、辛くてもご飯食べないと」

話すのも億劫なのか、信長は返事を返さない。主の信長を案じているのか信長の飼っている鷹の天狼が、部屋の窓から様子を伺っている。

「じゃ、ちゃんと寝てて下さいね」

そう言ってかさねは立ち上がった。
かさねの言葉に、信長が上半身だけをむくりと起す。

「どこに行く気だ?」

「え?おかゆでも作って来ようかなって思ったんだけど…」

「…ならばさっさと行ってこんか。何をそこで突っ立っている」

「…呼び止めたのアンタじゃん…」

相変わらずの傍若無人さにかさねは怒りをとおり越して呆れる。突っ込んでもどうせ無反応だろうとかさねは信長をほっといて部屋を後にした。
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