戦國ストレイズ

似た者夫婦
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「帰蝶か。…久しいな」

「息災の様だな上総介」

三馬鹿供に、清洲に偵察へやった勝三郎を迎えに行かせ、何故かその帰還した連中の中に帰蝶が加わって帰って来た。
なんでも偶然居合わせ、勝三郎の危機に馳せんじたと本人は言っているが、実際何処までが本当か解らない。この女は相変わらず掴み所がない。

「後半年は帰ってこぬと思ったが」

「私の実家と、この尾張の仲が不穏になっているその時に、いくら私でもそ知らぬ顔で放浪などしておれまいて」

帰蝶は根っからの風来者で、この城に居ることは滅多に無い。一度城から出たら一年位は平気で帰って来ない。
他の城ならば、当主の妻である女が、一人で旅などその様なふざけた真似など決して許されぬ事だが、信長は問題ないと許容出来る範囲なら濃姫の勝手をたいてい許した。

所詮政略結婚で結ばれた縁だ。
信長と帰蝶はどうも互いに夫婦と言う実感を感じずに過ごして来た。
信長は濃姫に対して妻と言う役割を求めなかったし、濃姫も信長がそういう心持ちで居てくれて助かったらしく、ならば自分勝手に好きにさせて欲しいと進言したのだ。

「…そうだ、驚いたぞ上総介。おまえが傍に女を置いておるなど」

「…」

濃姫の言葉に、信長は一瞬誰の事だ?と顔を顰めるが、自分の傍に居る、帰蝶の知らない目新しい女など、あのまねけ面の女一人しか浮かんでこない。

「…あの女の事か」

「噂ではたいした寵愛ぶりだそうだな」

「……それが何だ?」

実際その噂は真っ赤なデマなのだが、否定するのも面倒なので、信長は適当に話を合わす。

「いや、少し意外に思っただけだ。妻としての責務を放棄している私が、おまえの色事に異論するつもりはない。寧ろその様な甲斐性があると知って安堵したぞ」

「…」

「これでもおまえには感謝しているのだぞ上総介。本来ならば私はこの城から生涯抜け出せず、自由を与えられずに子を生まされ、老いていく身だった。だがおまえが夫として、私にとっては申し分ない。なんせ妻の役目を果たさずとも、この様な勝手を許してくれるのだからな」

そう言って濃姫が薄く笑う。

「…だが、おまえがあんな初そうな娘が好みだったとは、さすがの私も知らなんだな」

「…」

からかいを含んだ濃姫の言葉に、信長は何も言わずに濃姫を睨み付ける。

「知らない間に、随分人間くさくなったじゃないか」

濃姫は信長の反応に、実に愉快そうに肩を竦める。

「殿様!信行さんが呼んでって…、あっ、の、濃姫様?」

息を切らせて現れたかさねが信長に声をかけるが、濃姫の存在に気が付いて慌てる。

「お、お邪魔して、ごめんなさい!」

「かまわぬ、娘。私はもう戻る」

そう言って濃姫がかさねに歩み寄る。

かさねの顔を上げさせ、無理矢理自分の視線と合わせる。

「…え?な、何です…か??」

濃姫の行動が掴みきれないかさねは、目を丸くして濃姫を見つめる。

「良い目をしている」

そう言って濃姫がにこりとかさねに笑みを零す。
かさねはまだ訳が解らないままだったが、濃姫の人の良さそうな笑みに、何だかつられて笑みを浮かべる。

「上総介!余りこの初な娘に無理はさせるでないぞ」

「…む、無理??」

かさねはきょとんと濃姫を見つめる。

「娘、差し障り無い程度に励め。……おまえ達のやや、楽しみに待っているぞ」

「………………は、い゙ぃ!??」

かさねが真っ赤な顔で、驚愕した声を上げる。

「ふふ、ではまたな、娘」

そんなかさねの顔を見て実に愉快そうに濃姫が去っていく。

「…」

取り残されたかさねが、信長を気まずそうにちらりと見遣る。

「…な、何だか凄い人ですねぇ」

かさねが濃姫の去った方向をポカンと見つめる。

「あれは昔からああだ」

「何だか似た者夫婦なんですね…」

どこか掴み所が無くて、何を考えてるかわかんなくて、行動と発言が大胆で。

何だか少し殿様と似ている気がする。



「…全く、喰えん女だ」



濃姫が去った方向を見据えながら、信長が、ぼそりと一言そう漏らした。






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