戦國ストレイズ

猫とお酒とやきもち
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五郎左達を見送った後、かさねは特にする事も無く、城の縁側で暇を持て余す。
もう空は日が暮れ始めており、夕日が半分以上沈んで、月が顔を覗かせている。

今頃祭を楽しんでいるだろう五郎左達を思うと、こんな誰もいない夕暮れの庭で、何もする事が無く、ただ時間をどう潰そうかと考えている自分に、何をやっているのかとさもしい気分になってくる。

「……ん?」

気配を感じて顔を上げれば、庭の灯籠に天狼が止まっている。

「あれ?天狼さんどーしたの?」

何時もならば信長の部屋に信長と一緒にいるのだが、珍しい天狼の単品に、かさねは首を傾げる。

「…暇なら私の部屋に来ない?天狼」

無駄だろうとは思ったがかさねは天狼を自室へ誘う。しかし意外にも天狼は意味を汲み取り、かさねの頭に乗る。

「何をしている」

低い声に、かさねはビクリとする。

「と、殿様…?」

相変わらずどこで沸いて出たか、いきなり現れる信長に、かさねは毎回寿命が縮まる気がする。
しかもなんかいつも怒ってるイメージしかない。

「…別に」

かさねは信長の問いに素っ気ない返事を返す。
先程自分だけ祭に行くのを駄目だしされたのを、かさねは実はまだ根に持っている。

「…」

「ほら、早く私の部屋に行こっか、天狼…」

天狼を引き連れて、さっさと部屋に帰ろうとするのだが、天狼はいきなりかさねの頭から飛び立って、どこかに行ってしまった。

「…う、裏切り者ぉ…」

自分だけ逃げて何処ぞに行った天狼に、かさねは恨めしげな視線を送りながら、うなだれる。

「…」

「…もういいです、帰ります」

かさねは踵を返し、信長と視線を決して合わせない様にしながら、部屋へ向かう。

「待て、女」

「な、何ですか?」

信長に呼び止められ、かさねは引き腰になりながら振り返った。

「少し付き合え」

「……はい?」







「月見酒といくか」

信長は二杯の盃と、酒が並々入ったとっくりを持ち出す。

「…未成年にお酒飲ます気なの?」

「未成年?酒を呑むのに歳など関係ない」

不思議そうに顔をしかめる信長に、かさねは異論するのを諦めた。自分の世界の常識と、この世界の常識は一緒にしないほうが良いみたいだ。

「…注げ」

信長はかさねに盃を差し出した。
どうやらお酌をしろとのご要望の様だ。

「…」

逆らうのも面倒になって素直にお酌をする。

「…おい、盃」

信長の盃に酒を注ぐと、今度は信長が片手でとっくりを持って、かさねに盃を持てと促す。

「あ…ありがと…」

片手酌だが、まさか信長が自分にお酌をしてくれるとは思ってなかったので、かさねは何だか畏まる。

「殿様はこんな風にいつもお酒呑んでるの?」

「いつもではないが、たまにな。晩酌を他の人間と共に呑むのは滅多に無いが」

「ふーん…」

盃に並々と注げられた酒を、かさねは楕円の波を作って遊ぶ。
酒に映った自分の顔が歪んだ。

信長はいっきに酒を飲み干し、また酒を盃に注ぐ。なかなかの信長のハイペースぶりに、かさねは口をあんぐりと開けて見つめる。

「おいしいの?」

「まずくて俺が呑むと思うのか」

「思いません」

「なら下らん事を聞くな」

つんとした信長の態度に、かさねはいちいち気にしないと心に決め、酒を信長に習っていっきに飲み干す。
真面目な性格の為、酒を呑むのに抵抗がないわけではなかったが、せっかくお酌をしてもらって呑まないのも悪かったし、もとよりお酒には前々から興味があったので、まあいいかー、とかさねは半ば開き直る。

「…おいしい…」

「上等な酒だからな」

口にした途端に広がる微かな苦味とほのかな甘味が妙にマッチして実に美味だった。

「好きなだけ呑め」

「いいの?」

信長の言葉に、実に嬉しそうにかさねは信長を見た。
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