戦國ストレイズ

健全青少年
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「五郎左の奴…」

内蔵助は布団を敷きながら、苦々しく舌打ちした。

元はと言えば、聞かせろと言ったのは自分達だが、あんな過剰に怖いネタを持ってくるなど反則だ。

理不尽な怒りが何やら沸いて来て、内蔵助は苛々していた。

い、いや、俺は別に怖かねーぞ!あくまで一般論だ!あの馬鹿女も顔が真っ青で怖がってたしな!

内蔵助は無理矢理己に言い聞かせる。
自分が、ひとりっきりのこの部屋が怖いなんて事などあるわけない。

「だいたいあいつは昔から…」

五郎左に悪態を付きながら、無意識に怖さを紛らわせようとする。
布団の中に入ろうとした途端、物音がしてビクリと身を震わせ、サッと振り向く。

「な、何だ!?」

「く、内蔵助さん?お、起きてる?」

「その声、馬鹿女か?」

物音の正体がかさねだと気が付いて、内蔵助は内心ホッと胸を撫で下ろす。
だがすぐ疑問が脳裏を掠める。何故あの女が俺の部屋に訪ねてくる?

「何だ。なんか用か?」

「えっ、えっと…その…」

言いにくそうにかさねが言葉を濁らす。

「こ、今夜…い、一緒に寝ませんか?」

「…………………ハァ!!??」

内蔵助は思いも寄らないかさねの言葉に、思わず抜けた声を返す。

い、一緒に、ね、寝るって。

「さっきの話聞いてから、ど、どうしても怖くて…その」

「ば、馬鹿じゃねぇのか!そんな事出来るわけねーだろうが!!」

内蔵助が真っ赤な顔で襖越しのかさねに怒鳴り付ける。
襖越しでもわかるくらい、かさねは申し訳なさそうに縮こまる。

「うう…ですよね…すいません。じゃあ犬千代さんの所に行ってきます」

「ばっ!オイ待て馬鹿女!」

そう言って去ろうとするかさねの影を見て、内蔵助が慌てて襖を開けて引き止める。

「はい?」

何事かと目を丸くして見つめ返すかさねに、内蔵助は思わずたじろぐ。

「お、おまえ、犬千代にもし断られたらどーする気だ?」

「五郎左さんの所行こうかなーって…」

かさねがバツが悪そうに苦笑いを零しながら頭に手を遣る。

犬千代の次は五郎左って…。

「じゃあもし五郎左にも断られたら?」

「うーん、とにかくお城の中の知り合いに手当たり次第に…」

「馬鹿じゃないのかおまえ!!」

内蔵助が呆れを通り越して怒り出す。
この城でのこの女の知り合いと言えば、皆揃いも揃って男だ。
残念ながら武道を嗜む、奇天烈な格好のこの女とお近付きになろうという勇敢な女など皆無で、もっぱらこの女の親しい仲の連中は、血の気盛んな若い見習い兵ばかりだ。
犬千代と五郎左は大丈夫かも知れないが、他の連中は違うだろう。
夜中に、若い女であるこいつが一緒に寝てくれと訪ねてくれば、そりゃあ邪な考えに行き着くのも無理じゃない。

「で、でも」

かさねが困った様な顔をして内蔵助を見遣る。
内蔵助は、はーっ、と溜息をつく。

「…わ、わかった。今夜一晩、…い、……一緒にいてやる」

「本当!?」

かさねが安堵を含んだ、嬉しそうな笑顔を内蔵助に向ける。
何だかその笑顔を見るのが気恥ずかしくて内蔵助は慌てて視線を逸らす。

「ただし!今夜一晩だけだからな!!」

「はい!全然良いですそれで!」

かさねは嬉しそうにコクコクと頷く。




「無駄話なんかしないでさっさと寝るからな」

「はい」

「おまえ、そこの布団勝手に使って寝ろ。おれは端に寝るから」

そういって先程自分が敷いていた布団をかさねに明け渡し、毛布だけ持って内蔵助が部屋の隅にいそいそ歩いていく。

「え!?そんな!私が床で寝るから、内蔵助さんが布団で寝てくださいよ!押しかけたの私だし…」

「馬鹿か!女を床で寝かして男の俺が布団で寝れるか!」

「女とか男だとか関係ないよ!内蔵助さんが布団で寝てください!」

「おまえが寝ろ!」

「内蔵助さんが寝てください!」

訳のわからない言い争いを始めるかさねと内蔵助。ひとしきり言い争って息切れした後、かさねが何か思い付いたらしく手をポンと叩く。

「じゃあ一緒に布団で寝ればいいじゃ?」

「…………はああ!?」

かさねの思わぬ提案に内蔵助が声を上げる。

「い、一緒にふ、布団でっておま、それって」

真っ赤な顔で内蔵助が動揺して、何か言葉を紡ごうとしているのだが、呂律さえ怪しい。

いや、無理だろ。絶対無い!こ、こんな馬鹿女となんて…!

「弟達が心霊番組見て怖がってた時はよく一緒に寝てあげたんだ〜」

そう言ってデレデレと顔を緩めるかさね。
内蔵助はかさねのその発言で落ち着いたらしく、眉間に皺を寄せて、かさねを見遣る。

「俺はおまえの弟じゃねーぞ…」

「やだなー、当たり前じゃないですか。わかってますよそれくらい」

果たして本当にこの女はわかっているのか疑問が込み上げる。
この女の言動を見る限り俺を男として見てない様だ。

「もうそれでいい…めんどくせぇ」

何だか自分だけ意識しているのが阿保らしくなって、内蔵助はかさねの提案に折れる。

かさねに背を向ける様に、さっさと布団に横たわる。

「じゃあおやすみなさい内蔵助さん」

かさねが布団に入る気配がして、すぐ後ろで声が聞こえた。
触れるか触れないかの距離に、内蔵助は怪しい動悸を必死に抑える。


内蔵助と考え無しに一緒に寝ると言ったが、こうして内蔵助の広い背を見れば、自分の弟達と全く違うのだと痛感する。

(やっぱり男の子なんだなぁ…)

何だか今頃になって、こんな行動を取った自分が恥ずかしく思えて来て、かさねは堅く目をつむる。
けれど不思議とひとりで部屋にいた時の恐怖感は沸かない。内蔵助が隣に居てくれると思うだけで何だか安心する。

かさねはそのまま、すっと眠りにおちた。
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