戦國ストレイズ

野良猫を落とす10の方法
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信かさ医者パロ話。
夫婦になる前のお話で、信かさの慣れ初め話。






「姉ちゃんどれくらいで退院できんの?」

政宗がそう言って病院のベッドへ腰掛けた。

「そんなにかかんないよ。抗生剤打って治すだけだもん。先生は二、三日って言ってたよ」

「それなら安心だね!」

虎徹はかさねにぽふりと抱きついて頬擦りをした。
可愛い弟達の仕草にかさねは堪らず抱きしめる。

「ねえかさねちゃん、先生ってどんな感じ?優しい?」

かさねに懐きながら、虎徹がそう聞いた。
そんな弟の質問にかさねは渋い顔を浮かべる。

「…なんていうか、すっっごい怖い先生だよ」

「こ、怖いの?」

「うん、あと凄い上から目線」

嫌そうな表情を浮かべてかさねはそう告げた。

最近横腹に違和感を覚えていたかさねは大きな大学病院へ診察して貰いに来た。

お腹の違和感を訴えれば内科ではなく外科に通され、そこの先生にレントゲン写真を撮れと促された。

若く、凛々しい麗人の先生でかさねは驚いたが、その先生の態度が高圧的で、
何より顔が何か怖くてかさねは好感よりも不快感を抱いた。

「…まあでも2,3日くらいならなんとか平気でしょ」

アハハと笑ってかさねは言った。

「何が平気だって?」

「ひっ!」

低い声にかさね共々、弟達まで竦み上がった。
視線を向けた先には一人の白衣を着た青年が立っていた。

秀麗な青年で、紅い瞳が、かさねと弟達を見下ろしていた。

「…診察の時間だ」

男はそう言ってかさねに纏わりついていた弟達をしっしっと追いやった。
弟達は男の圧力に気押され思わず後退してしまう。

「さっさと服を上げろ」

聴診器を耳に当てながら男はかさねに促した。
かさねは渋い表情をしながら男の言う事に従う。

「じゃ、じゃあかさねちゃん、僕たちそろそろ帰るね」

「えっ」

「また明日も来るから!」

男の気迫が怖かったのか、弟達はそそくさと手を振って部屋から出て行ってしまった。

「うう…」

「ふん」

双子が去って消沈している様子のかさねを鼻で笑って男は聴診器をかさねに当てる。
心音を聞き、妙な所は無いかと確認すると、さっさとそれをしまって、今度は喉を見る。

体温を測らせれば、抗生剤の副作用で少し熱があった。

「なにか違和感はあるか?」

「えっと…別に…」

「そうか」

かさねに聞いたにもかかわらず男は感心薄そうに一言返しただけだった。
かさねはそんな男の態度にむうと頬を膨らませる。

この男の態度は、かさねが診察に来た時から変わらない。
病人なんだし、自分の患者なんだし、もう少し優しく出来ないものなのか。

他の先生はみんな優しそうなのに、なんで自分だけこんな先生に当たっちゃったんだろう。

自身の不遇をかさねは呪った。

横柄で無口で高圧的で怖くて、
なんだか昔テレビで見たお殿様みたい。

かさねはふとそう考えた。

(…殿様って、けっこうぴったりなあだ名なんじゃないの?)

自身の閃きにかさねはくすくす笑った。
ぴったりだ。この目の前の人物にお似合いすぎる。

かさねがにやにや笑っているのを見て、男の顔が不快そうに歪む。

「…なんだ」

「い、いえ!なんでもないっす!」

かさねは笑うのを止め、ばっと背筋を正した。
この先生のあだ名考えて笑ってたとか、そんなの知られたら絶対怒りそうだ。

怖いのでこのあだ名は自分の心の中にしまっておこう…。

「織田先生、次の患者さんが…」

「ああ」

看護師の促しに織田先生と呼ばれた男―――信長は立ち上がった。

「その抗生剤は強いから何か身体に違和感があったら伝えろ。食事の後は処方した薬を飲んでもらうからな」

「えええー」

「…文句があるのか?」

「ま、まさか!」

信長にギロリと一睨みされ、かさねはぶんぶんと顔を振った。
そのまま信長はつまらなそうに踵を返して看護師と共に部屋から出て行く。

途端しん…、と静まり返る部屋。
かさねの部屋は共同部屋ではなく、一人部屋だった。

一人部屋以外入院部屋が空いて無く、かさねは2,3日の事だしと一人部屋に入院する事になったのだ。

まだ空は日の明るい内だが、一人だけの病室というのは、正直、


「……こ…怖い」


かさねは元来臆病者だ。
おばけとか幽霊とか足の多い虫とか、大の苦手の小心者なのだ。

「…はは、大丈夫だよね…お、おばけなんて…いるわけない、…よね…」

かさねはそう自分に言い聞かせたが、部屋でぽつんと遣る事もなくぼーっとしていると、なにやらあらぬ方向まで気になってしまう。


「…ジュース買いにいこう」


かさねはそう呟きながらベッドから立ち上がった。



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