ここに迷い込んだら、プラウザバック

□さよならの歌
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あれは、いつの話だっただろうか。



大粒の雨がざぁざぁ、彼の体を容赦なく冷やしていってた。

それでも彼は、その雨から逃げようとしないで、むしろ一緒になろうとしていた。













勇人のお母さんが死んだ。










私は勇人と同い年で、幼なじみで、おばさんとも仲良く話していた。
勇人の家に遊びに行けば、笑顔で迎えてくれて、美味しい手作りのお菓子を出してくれた。
そのお菓子より美味しいものを、私は未だ食べたことがない。

勇人と一緒にお姉ちゃんを驚かそうとしているのも、見ぬ振りをして笑って見守ってくれてた。
そしてお姉ちゃんに怒られると、笑いながら止めてくれた。


――大好きだった。



そんなおばさんが死んだと聞いて、私は信じられなくて、何回も聞き返した。
私のお母さんは既に泣いていて、私に説明することすらままならなかった。


人が、悲しみで泣いてる所を初めて見たときだった。


つられるように私も泣いて、結局お父さんが帰ってくるまで二人で泣いていた。



亡くなった、じゃなくて死んだ、って言ってるのは、他人じゃなくて家族だと感じていたからなんだと思う。







そして通夜だ。
私は泣くことを止めた。
泣くべきなのは私じゃなかった。

勇人…家族だ。

おばさんが死んで辛いのは皆だけど、やっぱり辛いのは家族だから。
おじさんは一生分ってくらい泣いていて、お姉ちゃんはきょとんとする弟を抱き抱えながら静かに泣いていた。
勇人はお線香をあげて、すぐに外へ出て行ってしまった。
私もお線香をあげて、勇人の後を追った。






傘を持っていれば、差し出していたのかもしれない。
でも持っていなかった私は、一緒に濡れようと一歩踏み出した。
夜と喪服の黒が同化していた。

泣いていいよ、と言ってあげた方がよかったのだろうか。
私は勇人を抱きしめた。
たった数分濡れただけなのに既に冷たい体が、辛さを込み上げさせた。
いずれ我慢できなくなった私は泣き出して、それにつられるように勇人も泣き出した。


雨は、別れの演奏を奏でるように地面と私達を叩きつけていた。












今日は勇人の誕生日だ。
いつもより早く帰って、私はお祝いの準備を始める。

いつも、おばさんが作ってくれたお菓子を作るんだ。
そしていっぱい、おめでとうを言ってあげるの。
おばさんの分まで。




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プラスマイナス=ゼロ

2008/06/07
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想像のモノです。
せっかくの誕生日なのに明るく祝ってあげられない。
ごめんね。

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