ここに迷い込んだら、プラウザバック

□きみの声いまも胸に
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……本当、信じられない。


今日は待ちに待った始業式なのに。
宿題もちゃんと終わらせたよ?
テスト勉強もしっかりやった。
なのに…。






熱出すなんて……。






怠い身体をベッドに投げ出して、一息つく。
お母さんはパートだから、家には私一人だけ……寂しい。
手が届く範囲にポカリと薬があるけど、手を伸ばす気力が無い。
さっきからため息ばかり出る。



「やっと…孝介に会えると思ったのに……」


そう呟いて、また深いため息。
夏休み中は全然会えなかったのに……野球部は夏期講習来なかったし…。

熱出すと、どうもマイナス思考になるみたい。
このまま熱下がらなかったらどうしようとか。
明日も会えなかったらとか。
ああもう!黙ってると落ち込んでくる!ご飯食べよう。そうだ、そうすれば少しくらい気が紛れる。

思い立ったが吉日。布団から起き上がった時に携帯が光った気がした。
見間違いかと思ったら、今度は音楽が鳴り出した。慌てて開くと、画面には泉孝介の文字。



「も、もしもし?」

『おー、俺』

「…孝介……?」


『おう』



孝介からの電話だった。
久しぶりに聞いたその声にドキドキする。


「今…は昼休み?」

『昼休みだよ』

「そっか…ど、どうしたの?電話なんて…」

『……』


電話の向こうからざわざわした音。
部屋が静かだから、よく聞こえてくる。
田島くんの声が聞こえた気がした。

「心配、してくれたの…?」

『…おお』


少し素っ気なく答えた孝介。もしかしたら今、孝介の顔は赤いんじゃないだろうか。
もしかしたら、じゃなくて絶対そうだ。だって孝介、真顔でそういうこと言えないもん。


『な、何笑ってんだよ』

「何でもない」


いつも孝介はカッコイイけど、照れた孝介は可愛いんだ。そんな可愛い孝介を私はからかっちゃうの。

「ねぇ、孝介」

『あ?』

「何で、心配してくれたの?」

『…分かんだろ』

「分かんないから聞いてるんだよ」




沈黙。

ちょっと、からかいすぎたかな。
でも私がこんなこと聞いたのは、からかうためだけじゃなくて、今ちょっと寂しいからなんだ。
だから答えてほしいの。





『好きだからに決まってんだろ』





「……うん。私も好き」

『…明日は来んだろ?』

「絶対行く!」

『そんだけ元気あんなら大丈夫だな。じゃ』

「電話ありがと。明日ね」

『おう』


ツーツーと寂しい機械音。
凄く嬉しかったからか、今凄く寂しい。
頭の中で何度も孝介の声がリピートされる。私はこれだけで元気になった気がした。
明日また、顔を真っ赤にする孝介をからかっちゃおう!





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