ここに迷い込んだら、プラウザバック

□そして角砂糖をみっつ
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黒?



茶色?



今、私の前であたたかそうな湯気をたてるものを色で表すなら何だろうと考えていた。
人によって感じ方は違うから、はっきりこれと断定できないそれは、コーヒーと呼ばれていた。

砂糖を入れる。
ミルクを入れる。
色は呆気なく変わってしまう。



「……飲まないの?」



まじまじとコーヒーを飲まずに見つめていた私を不思議に思ったのか、正面に座っていた浜田は聞いた。
飲むよ、と返事をして私はまた、まじまじと見つめる。
もうこれが何色かなんて話はどうでもいい。
次は、これを何色にして飲むか。

砂糖はどれくらい入れようか。
ミルクは?
苦いのはそんなに得意じゃないから何かは入れないと…。

ちら、と浜田を見る。
浜田の大きい手に握られているカップの中身の色は、黒。
ああ、大人なんだ。何も入れずに飲むなんて。


「……ねぇ、浜田」

「何?」


私が話しかけると、口元に近づけていたカップをテーブルの上に置いた。
まだ湯気がたっているところを見ると、冷めてはいないらしい。
そろそろ、飲みたいかも。指先が冷たくなってきた。



「コーヒー、何色にしたらいいと思う?」



きょとん、と浜田はする。
そして意味が分かったのか、微笑んでくれた。この表情、砂糖たっぷりのコーヒーって感じ。


「甘そうな色にしちゃえばいいと思うよ」




ぽちゃん




私の言葉を聞かないで、浜田は私のカップに砂糖をひとつ落とした。
でも文句は無い。どうせ入れるかもだったから。


「何で?」

「え」


えっと…その……
浜田は言葉を探す。その間に私はミルクへと手を伸ばす。


「甘い、イメージだから」



伸ばした手は止まる。
何が?と聞くと浜田は照れたようにして私の名前を呼んだ。

ミルクへと伸ばされていた手は方向を変える。
もちろん、角砂糖にへと。



「俺も入れよ」

「ブラックじゃなかったの?」

「ちょっと、強がってみただけ」



ふたりで角砂糖へと手を伸ばし、ひとつ、ふたつとカップの中へと落としていった。

今、コーヒーは何色かって聞かれたら私はこう答えるだろう。



「あと、いくつ入れる?」



「みっつ」



"甘色"と。




少し寒かった部屋は、いつの間にかあったかくなっていた。
この居心地の良い場所に来るのは、今日が初めてだった。
だって、私たちは昨日付き合い出したばかり。




「…甘い」
「そりゃ、あんだけ入れてればね…」





2008.10.14
title by 確かに恋だった さま



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