ある寒い夜、岩本さんはアパートで友達二人と飲み会をして、そのまま酔った勢いでドライブに出かけました。
地図も持たずに適当に高速道路から一般道に降り田舎道に出ました。そこはポツリポツリと農家があるだけの道でした。
まだ酔いが残るなか高速道路に乗ろうと入り口を探していた時です。
川に沿ったS字カーブを曲がった所で電柱に突っ込んでいる車が目に入りました。
岩本さん達が車を停めて事故社をのぞくと運転席に挟まれている男性が見えました。
頭から血を流していましたが、岩本さんの呼び掛けに頷くことは出来ました。
岩本さんたち二人が車から男性を引っ張り出そうと、もう一人が携帯で警察を呼ぼうとしたその時、農家のおばさんといった格好の中年女性が現れて言いました。
「ええよ、おばちゃんが警察を呼んであげるから、あんたらは行きなさい。そんなお酒の臭いぷんぷんさせて警察て会わんでええよ。あの男の人はおばちゃんが引っ張るから」
岩本さんは押しの強いおばさんに圧倒されて事故現場を離れました。
その後高速道路の入り口を見つけられず、もと来た道を引き返すことにしました。
かれこれ事故を見てから一時間はたち辺りは明るくなっていました。
岩本さんたちはまだ車が電柱にぶつかっていたので驚きました。
脇に軽トラックが止まっていて農家風のおじさんが携帯で警察に電話している所でした。
おじさんは岩本さんたちを呼び説明してくれました。
「ああ、車がはね飛ばしたみたいなんや。車の運転手は電柱にぶつかって死んどる。跳ねられた方も駄目や。」
『跳ねられた方?』
岩本さんの声におじさんは川のなかを指差しました。岩本さんがそちらを見ると、明け方ここで話したはずの中年女性が無
惨な姿で横たわっていたのでした。