ある古いアパートの一室が、Tさんの新しく暮らす部屋だった。隣に美人なお姉さんが住んでいて、彼の部屋に肉じゃがを持ってくるようになった。

「作り過ぎたので、もしよろしければどうぞ。」

貧乏で簡素な生活をしていたTさんにとって、それはとても有難いことだった。しかも、その女が持ってくる肉じゃがはどの店にも負けないくらい、上質な味だった。しかし、差し出された皿は数十枚を超え、始めは美味い美味いと食べていた肉じゃがの味にも飽きていた。

ピンポーン

いつもと同じ時間に正確に鳴るインターフォン。
鳴らしているのが誰かなんて、Tさんが理解するのは容易い事だった。

(「もう飽きた」なんて言える訳がない…)

鳴り続けるインターフォンに、Tさんは重い腰を上げ、玄関へ。たてつけの悪い扉を開けると、やっぱりあの女が立っていた。
 
「作り過ぎたので、もしよろしければどうぞ。」

折角の美人なのにニコリともしないで、並々と肉じゃがが盛られた皿を差し出す。

「あの、ありがとうございます。でも、もう、結構なので。」

言い難くて言葉が安定しないが、Tさんは断った。女はやっぱり無表情のまま、皿を差し出していた。Tさんは肉じゃがの臭いに我慢ならず、遂には皿を受け取らずに扉を閉めた。

その日は女も諦めたのか、インターフォンの音はそれっきり途絶えた。

ところが次の夜。また同じ時間にインターフォンが鳴り響く。その事を推測していたTさんは夜にも関わらず部屋中の灯りを消し、息を潜めていた。

ピンポンピンポンピンポンピンポン

煩いくらいに鳴り響くインターフォン。
Tさんは布団に潜り込んで音が止むのを待っていた。暫くして音が止み、ふぅッと安心してため息をつくTさん。布団から顔を出して驚愕した。

天井にあの女が張り付いて、こちらを見て、と笑っている。初めて見た表情には顔の半分がない。Tさんの体は金縛りのように動かず、唯一動く目で状況を理解しようとした。目が暗闇に慣れていたので、状況の把握にかかる時間はほんの僅かだった。女は、顔だけじゃなく体の一部もなくなっていた。

恐怖で気がおかしくなりそうなTさんを見て、女は笑いながら壁を伝ってスルスル降りてきた。

(ヤバイ、降りてきた!!)
次の瞬間、女は体から自分の肉を千切り、Tさんの口に突っ込んだ。

「私ノオ肉オイシイ?」

Tさんはそのまま意識を無くした。

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