短編3
□拍手ろぐ
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「きらい」
独り言には大きくて、世間話にはそぐわない、吐き捨てるような声音で、ライナは呟いた。
「・・・何が、嫌いだって?」
シオンは怪訝そうにライナに尋ねる。いきなり何を言い出すのやら、こいつの突飛さにはほとほと呆れる。そうでなくともライナは面倒がってちゃんと順を追って喋ることが出来ないのだから。
「大きらいだ」
「ライナ、せめて主語と目的語を言えよ」
「俺は、おまえが、大きらいだ」
「・・・そうか」
ライナが俺の言う通りに言ったところが、尚更ショックだ。墓穴を掘ってやがる。
「俺はライナが好きだよ」
「・・・」
ライナはつまらなそうに立てた肘に顎を置いて外を向いてしまった。あれ、いつもなら恥ずかしがって可愛らしく顔をしかめるんじゃないの。
「嘘吐き」
「嘘じゃないよ」
「・・・ならいい」
そう言ってライナは部屋を出ていってしまった。
シオンは首を傾げる。ライナの様子が絶対おかしい。
「ああ、そうか」
ふと、思い出した。今日は四月一日だ。そういやイリスがフェリスにあることないこと吹き込まれていたな。
シオンはクスリと笑う。恥ずかしがり屋のライナらしいじゃないか。
「嘘吐きな悪い子には、お仕置きしなきゃな」
そうだ。俺も大嫌いだと言ってやろう。
ライナの顔が真っ赤に染まるのを想像しながら、シオンは執務室を後にした。
(09年4月)