NOVEL 海賊

Wonderful opportunity〜世界がそれを恋とは呼ばなくても
1ページ/5ページ

夜中にごそごそと体の上に気配を感じてロロノア・ゾロは目を覚ました。
暗闇のなか目を開けると自分の腹の上になにやら布の塊が這い登ってきている。

「・・・ルフィ?」

寝ぼけた声で問いかけるとやはり寝ぼけたような声で‘落ちた’とだけ答えが返ってきた。

「ああ。」

寝相の悪いルフィがハンモックから落ちて、もう一度登るのをめんどうくさがって毛布持参で自分の寝ているソファにやってくるのはいつものことだ。自分の腹の上にうつ伏せにへばりつき早くも寝息をたてている船長の肩に慣れた手つきで毛布をかけ直してやり、自身もすぐ眠りの中に戻っていった。



朝、キッチンにぽつぽつとクルー達が集い始め朝食の用意ができたころサンジがウソップに声をかける。

「おいウソップ、あのあつっ苦しい二人を起こして来てくれ。」
「ん?・・・ああ、わかった。」

ウソップが後ろ手にキッチンのドアを閉める時ナミがあきれた声で、又なの、と聞いているのが聞こえてきた。その声にはかすかに笑いが含まれている。
船底に向かいながら、だがウソップはなんとなく足取りが重かった。
そう、‘又’なのだ。数日に一度はハンモックから転げ落ちたルフィがまるで何かの動物の親子よろしくゾロの腹の上で寝ている。確かに、本当にただ寝ているだけなのだ。それでも。

「・・・おかしいだろ。」

ガーガーとのんきに鼾をかいている二人を前にしてひとりごちる。べったりとゾロの胸に頬をおしつけて眠るルフィの背にはご丁寧に剣士の太い腕がそえられている。いかに幼く見えるとは言えルフィだってもう17だ。それが、どれほど仲が良くても男同士こんなに密着して寝て互いに抵抗や嫌悪感はないものだろうか。

そして更に謎なのは他のクルー達だ。純粋で気のいいチョッパーだけならいざ知らず、あの皮肉屋のサンジや辛辣なナミでさえその事実を‘まったくルフィにも困ったもんだ’程度にしか思っていないようなのだ。一人本心の見えないロビンがどう思っているのか知りたいところだが、藪をつついて蛇を出すことになるのも不本意なので未だ聞けずにいる。
もし、とウソップは常々考えている。もしも、この二人がいわゆる恋人同士なのだとしたら…。

「おれが一肌ぬいでやらなきゃな。」

ぽつりと口をついて出た声が存外大きくて慌てて口に手をやる。
−もし、ルフィとゾロが恋人同士なら。
最初にそのことに思いいたった時ウソップは愕然とした。そうだとしたら二人の奇妙なほどの仲の良さも、友人や仲間としては過剰に見えるスキンシップも全て納得がいく。

嫌悪感がまったくなかったとは言わない。それでも個々人の嗜好にとやかくいうのは自身のポリシーに反するし、何より二人は大切な友人なのだ。のんきに見えるが、もしかしたら自分達の関係を皆に言えず悩んでいるかもしれない。

今のところ船内でその可能性に思い至っている者は自分以外いないように見える。やはりここはひとつ自分が相談にのってやるべきだろう。今日にでもルフィに話を聞いて、もし自分の考えているとおりなら皆に話すための橋渡し役を買って出てもいい。せまい船内だ。こういうことはきちんとしておいたほうがいいだろう。

ウソップはうん、と大きくひとつうなずいて決意を固める。今日は忙しくなるかもしれない。そう考えながらあいかわらず起きる気配のない二人に声をかけた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ