NOVEL 海賊

Time works wondersT:ナミ〜あ・がーる・みーつ・ざ・ぱいれーつ
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オレンジの町の港を出て数時間、日はすっかり暮れて二艘の船は夜の海を静かに漂っている。お世辞にも立派とは言いがたい自分の船よりさらに小さな隣のボートには、思い切り手足を伸ばして眠りこけている長身の男と、その様子を飽きもせず見ている麦わら帽子の少年がのり合わせていた。

二人が今回ナミの‘手を組んだ’相手。
海賊狩りと悪魔の実の能力者。航海を共にするには心強い二人である。

さっきから傷を負って眠っている海賊狩りの顔を覗き込んでみたり傷に手を伸ばしてみたりと、落ち着きのない少年がなんとなく微笑ましくてナミは船縁越しに隣の船に声をかける。

「で、あんた達は何?兄弟…ってことはないわよね。全然似てないし。親戚とか幼馴染とかそんなかんじ?」
「ん?いや、違うぞ。オレ、ゾロとは会ったばっかだし。」
「え?」
「仲間探してたらさ、こいつに会って、やだって言ったけど無理やり仲間にして一緒に海賊やってるんだ。」
「…はあ?」

ナミはあっけにとられてニコニコと笑うルフィと大口を開けて眠っているゾロとを見比べる。

「会ったばっかり?」
「おう。半月くらいか?…もうちょっとたつのかな?よくわかんねぇけどそんな感じだ。」
「…じゃあ、そいつはその会ったばっかりのあんたを助けるのにあんな無茶したってわけ?」
「ああ、そうだな。いい奴だよなー。」

それに強いしな、といかにも嬉しそうに言うルフィにナミは返す言葉を失う。

“おい、いいってゾロ。ハラワタ飛び出るぞ。”
“飛び出したらしまえばいい。”

会ったばかりの他人のためになんだってあそこまで?
ナミにはさっぱり理解できなかった。ざわり、と胸の中がざらつく。

―海賊のくせに。

「―バッカみたい。」
「ん?」
「バカみたいって言ったのよ。会ったばかりの他人をあんな死にそうになってまで助けるなんて、バカもいいところだわ。」
「そっかー?やー、そうかもなー。」

ナミのとげとげしい口調にも動じることなくのんびりとルフィが返す。ざわざわと胸のうずきが広がっていく。

「―つきあってらんない。もうそいつも平気そうだし、寝るわ。」

くるりときびすを返すナミの背におーおやすみー、と間の抜けた声が答える。それにはとりあわず後ろ手に船室のドアを閉めてナミはようやく肩の力が抜けるのを感じた。
―海賊のくせに。
もう一度苦々しくそう思う。

海賊なんて皆最低だ。自分勝手で、人の大切なものを平気な顔で奪っていく。だから、自分は絶対に海賊なんか信用しない。海賊相手に何をしたって心なんか痛まない。

なのに、なんでこんなに胸がざわつくのだろう。どうしてあの二人をうらやましいなんて一瞬でも思ったりしたのだろう。自分もその仲間に入りたいだなんて。

胸に手をあてて気持ちを落ち着かせる。
自分のやるべきこと。自分の目標。
―大丈夫。ちゃんとわかってる。
自分にはやらなくちゃいけないことがある。そのためにはあのお人よしの二人と行動するのは都合が良い。

そう、それだけのこと。
ナミは軽く頭をふって自分に言い聞かせる。それだけのことなのだ、と。

窓からふと小船のほうに目をやると、あいかわらず眠っているのだろう海賊狩りの顔を覗き込むようにして麦わら帽子がゆれている。

笑っているのか。心配しているのか。

―バカみたい。
そうもう一度つぶやいてベッドに向かう自分の口元が微かに微笑んでいることにナミ自身気づくことはなかった。
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