NOVEL 海賊

Time works wondersU:ウソップ〜水平線
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船は後方からの風を受けて静かに海上を進んでいる。

空は青く、海はもっと碧く自分の乗った船の小ささに背中がぶるりと震える。
―海賊に、なったんだな。
船首近くの手すりにもたれ遥か彼方まで続く波頭を見つめながらウソップは大いに感動していた。

自分の乗る船はお世辞にも大きいとはいいがたいし、仲間もまだたった4人で、しかも皆まだ子供といっていいほど若い。でも、志のでかさならどんな海賊にも負けないとウソップは思う。
あのオレンジ髪の航海士の目指すものはまだよく分からないが、航海の技術を見るにつけ只者ではないと思わされる。自分はもちろん偉大なる海の戦士に、そしてあの二人の夢のでかさといったら…。

「よーう、何してんだ。ウソップ。」

背後からたった今自分が考えていた相手に声をかけられてにこやかにウソップはふりむいた。
そして、かくんとアゴをおとした。

「おめぇが何してんだ!?」

くだんの船長は緑髪の剣士の背中にぶらりとぶらさがっており、その肩の上からちょこんと顔をのぞかせている。一方の剣士はといえばそんな船長の存在などまるで無いかのようにいつもどおりにゆったりとポケットに手をつっこんだままこちらを見ている。

「おんぶだ。」

真面目くさった顔の船長の台詞に剣士が即座に言葉をかぶせる。

「おんぶじゃねぇよ。てめぇが勝手に乗っかってるだけだ。」
「だってゾロが遊ばないとかわがまま言うからじゃん。」
「誰がわがままだ。俺は眠いんだよ。おら、降りろ。ウソップに遊んでもらえ。」
「いやだ。ことわる。」
「…。ウソップ、わりぃがこいつひっぺがしてくれねぇか。」

淡々と交わされる会話に呆然としていたウソップにいきなりゾロが視線を向けてきた。それに、ふぇ?と間の抜けた返事を返してもう一度二人の顔を見比べる。

器用に片眉を上げてこちらを見ているこわもての剣士。その首にぐるりと手を絡めて肩の上から妙に真面目な顔を覗かせている童顔の船長。
夢か?おれは夢を見てるのか?それともこれは妖怪おんぶおばけなのか?
そのあまりのシュールさにウソップは視界がぐらりと揺れるのを感じた。

「おい?ウソップ?」
「どーしたー?ウソップ。なんか顔色悪ぃぞ。」

二つの首から同時に話し掛けられてウソップはひぃと喉をならす。

「ああああぁ、わ、悪いんだが、おれは大切な用事があったんだった。じゃ、そういうことで。」

それだけ言うとウソップは全速力でその場を後にした。
甲板を駆け下りナミの姿を求めてキッチンへと向かう。走りながらようやく今見たものが現実であることを受け入れるだけの余裕ができてきてはいた。
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