NOVEL パラレル

空の青と本当の気持ち.4
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静かなくせにやけに重々しい足音がゆっくりと階段を上ってくる。

聞きなれたその音に心臓のあたりが冷たくなっていく。
逃げ出したい、と本気で思った。

けれどその思いとはうらはらにルフィの体は氷ついたように動かない。目だけが吸い寄せられるように階段のほうに向けられる。
ゆっくりと姿をあらわす長身のシルエット。見慣れた姿。
影になって見えないその顔がこちらに向けられて、驚いたように足を止めた。

どんな顔をしているのだろう。せめてそこに浮ぶのが嫌悪の表情でありませんように、とルフィは祈らずにはいられない。

「…ルフィ…?」

長い沈黙のあとゾロが声を上げる。

「お前…っ、何してんだ!?そんなとこで。」

大股で駆け寄ってきたかと思うと腕をつかまれてむりやり立ち上がらせられた。

「この、ばか!この寒いのに、なんで中に入んねぇんだ!?鍵は?なくしたのか?」

やつぎばやの質問にルフィはただ首を左右に振った。つかまれた腕が熱い。
その強張った表情に気づいたゾロがつかんでいた手をそっと離して、悪い、とつぶやいた。

「悪かった。…とにかく中入れ。風邪ひいちまうぞ。」

かちり、と乾いた音をたててドアが開いた。





「…ほら。」
「ん…。」

渡されたカフェオレは舌がやけるように熱く、じんわりと甘かった。
コーヒーが苦手なルフィにいつもゾロが作ってくれるその味が冷え切っている体をゆるりと温めていく。

隣でゾロは服も着替えないままベッドにもたれてコーヒーをすすっている。その横顔をちらりと盗み見てルフィはまたカップの中に視線をおとす。

沈黙が重苦しかった。
ゾロに言いたいことはたくさんあるはずなのに、いざ本人を目の前にするとどう切り出せばいいのかさっぱり頭がはたらかない。

「…なぁ、ゾロ…。」
「ルフィお前、」

重なった声に互いに顰め面で顔を見合わせた。

「…何だ?」

気まずい沈黙のあと一瞬早くゾロが口を開く。
しかたなくルフィはぼそぼそと話始めた。

「…えぇと、あのな。…この前のことだけど。」
「……ああ。」

「えーと、オレな、ゾロのこと、なんていうかその…別にゾロのこと…そういう意味で好きだったわけじゃねぇんだ。」
「そうか。」
「ゾロとちゅーしてぇとか、…えっちしてぇとか、全然一回も思ったことねぇんだ。ホントだぞ?」
「ああ、わかってる。」
「―そか?」
「わかってる。ルフィ。俺だってお前をそんな目で見たことなんか一度もねぇよ。」
「…。」
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