NOVEL お祝い
□流れゆく日々 巡りくるもの
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全てが金色だった。
足元に広がるすすきの斜面も、その向こうずっと下のほうに見える刈り取りの終わった田んぼも、その間にぽつりぽつりと点在する家々の屋根も、全てが遥か彼方の山の端にかかる秋の夕日を受けて金色に輝いていた。
一時間ほど前までは午後の透明な光の中でそれぞれ息づいていたもの達が全て、暮れかかる日に照らされてその輪郭をにじませていく。
「終わり」の景色だ、とゾロは思う。
枯れゆく草花、葉を落とす木々、終わっていく今日という日。
生命の終わり。一日の終わり。
秋の夕暮れをそんな気持ちで見たことは今まで一度だってなかった。
「死」というものに間近でふれるまでは。
昨日、ゾロの通う道場で飼っていた犬が死んだ。
飼っていたといっても2週間ほど前稽古に来る途中誰かが拾ってきたよぼよぼの老犬で、子供達がそばでうるさくしてもめんどくさそうに一、二度尻尾を振ってみせるだけですぐに前足の間に鼻をつっこんで眠ってしまう、そんな愛想のない犬だった。
そんな犬でもいつの間にか道場わきの木の下にいるのがあたりまえになっていたのに、昨日ゾロが練習に行くと繋いであった首輪とロープだけを残して犬がいなくなっていた。
はじめは逃げたのかと思った。
あんな老犬なのにと意外に思いながら庭のほうにまわってみると、そこには四肢を伸ばしたまま硬くなっている犬とそれを囲んで泣いている数人の子供達の姿があった。
くいなも鼻の頭を真っ赤にしてぐずぐずと涙を拭っていた。
寿命だったんだよしかたがないさ、と先生が皆をなぐさめながら亡骸を庭の隅に埋めてやるのを手伝いながら、だがゾロは泣かなかった。
犬が死んで悲しいという気持ちが無いわけではなかったが、それ以上に突然やってくる理不尽な「終わり」というものが無性に腹立たしかった。