NOVEL お祝い
□満ちる世界
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「そっか」
船がある。ずっと以前小さな手こぎのボートで一人海に出た時が嘘みたいな立派な船が。
サンジの作る料理はいつだって本当に美味いし、ボンクは寝心地がよくて枕だってふかふかだ。航海士がいて医者だっている。狙撃手と考古学者と船大工とそれから音楽家だって。
この船と彼らとならきっとこの海をどこまでだって行けるだろう。
それに―。
「ゾロもいるしな」
つぶやくとゾロが驚いたように眉を上げた。しばらくルフィの方を無言で見つめてから、怒っているような困っているような妙な顔で少し笑う。
「…………そうだな」
ルフィは肩をすくめてししししと笑って足をぶらぶらと揺らした。
「それってつまりさオレ達は今すげぇシヤワセってことでいいんだよな?」
「―…あ?」
「だってそうだろ。欲しいもん全部もう持ってんだから」
全部持ってて、やりたいことや夢はずっと先で自分達を待っている。そこにたどり着くも着かないも全て他の誰でもない自分だけの責任だ。
「あぁ―そうか。…そうなのかもしれねぇな」
ゾロがおかしそうに肩を揺らしてくつくつと笑った。
そうかゾロは今シヤワセなのか。
それはとてもいいことだとルフィは思った。ゾロが幸せなのでルフィは満足して、そしてプレゼントのことはすっかりと頭の中から消え去ってしまった。
プレゼントを買い忘れていることに気づいたルフィが夜中にゾロをたたき起こして大騒ぎになったのは、その年のゾロの誕生日一日前の話。
→後書き