ぱられる

愚かな魚
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風呂から上がった銀時がふんふんと呑気に調子のはずれた鼻歌を歌いながら居間に戻ってきた。手には家の冷蔵庫に常備されているいちご牛乳の一リットルのパックが握られている。

「トシ、上行ってなかったんだな。何?まだやんの、ゲーム」

先に風呂を使った俺が自分の部屋に戻らずにまだ居間にいたのが不思議だったのだろう、パタパタと髪から雫をたらしながら首をかしげている。
その顔を見て俺は少し決心がにぶりそうになるのだが、今言わなくてはと自分に言いきかせてソファから立ち上がった。

「ぎん」
「んぁ?」

銀時がイチゴ牛乳のパックを口につけたままこちらに顔を向けた。俺はどんな顔をしていいのかわからないまま一つ大きく息を吸い込んでからゆっくりと口を開く。

「―好きなコが…できたんだ」

その言葉に銀時は、はひ、というような声をもらして目を丸くしている。

「ごめん。だから…悪いんだけど、」

顔が歪みそうになるのを必死にこらえて、俯いてそう続けかけた瞬間左の頬にものすごい衝撃を受けた。視界の端にカーペットの上に落ちたイチゴ牛乳のパックとそこから流れ出しているピンク色の液体をとらえながら、俺は派手な音をたてて背中からFAXや花瓶なんかの乗っているでかい木製の棚につっこんでいた。

「―っっ!!」

したたかに棚の角に背中を打ち付けて痛みに一瞬呼吸が止まる。花瓶が床に落ちてごとん、と重たい音をたてた。母親のお気にいりなので割れなくてよかったと思いながら、床に手をついて転がったところに間髪いれずみぞおちに容赦の無い蹴りを入れられた。

「がっっ!!」

つま先が胃にめりこんで、目の前が真っ白になるような痛みと共に熱い塊が喉に逆流してくる。

「――ゴホッッッ!!―ぅえっ!!」

俺はなす術もなく床に転がったまま、ゲームをしながら食ったスナック菓子や風呂上りに飲んだコーラを吐いた。鼻の奥がコーラの炭酸でツンと痛んで、苦しさのあまり涙が出て視界がかすむ。
飲み食いした物をひとしきり吐いてしまっても胃の痙攣はおさまらずに口の中にはあとからあとからすっぱい胃液がせりあがってくる。その間も銀時の蹴りは止むことが無く、俺はえづきながら必死に体を丸めて顔面と腹を庇っていた。
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