rak buku

□寡黙な君に
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「ただいま」

2年前から一人暮らしをしている家の
ドアを開け名前は1人呟いた。

「んー」

本来帰ってくるはずもない返事が
窓際のソファに座って本を読んでいる彼女から帰された。

「ただいまの返事はおかえりでしょ、普通」

名前は半ば呆れたように返事する。

「うん」

何に対してのうんなのだ。
思ったが口にするのはやめ冷蔵庫から
コーヒーを取りだし、2つのコップに注いで
飛鳥の所へ持っていく。

「ん」


そんな返事が返された。
彼女は今ご機嫌らしい。
面白い本にでも出会えたのだろうか?
そう思いながら、自分も本の世界に入るとする。


飛鳥がこの部屋に来るようになって
1年が過ぎようとしている。
ちょうど彼女が実家から出て1人暮らしを始めた頃だ。

3ヶ月前に合鍵を渡してからは
名前が居ない時でも
週に1回はこうしてやって来て
ここで本を読んでいる。

彼女は基本的にここにいるだけで
家のものには触らないし、喋る訳でもない。
本当にいるだけなのだ。

先週、

「最近、よく来るね」

と聞いたら

「迷惑?」

と返された。
迷惑なわけがない、居るだけなのだから。

ここにいるのが1番楽らしい。




「ねぇ」

飛鳥が珍しく話しかけてきた。

「ん?」

彼女の方を見て返事をすると、
飛鳥は手に夢の国のチケットを持って黙っていた。

「えっ、なに?」

名前は1人で混乱する。

「名前にはお世話になってるから、
一緒に行けたらなぁ、なんて思いまして」

語尾がどんどん小さくなっていくのが
彼女らしくて名前は微笑んだ。

「バカにすんな!」

「飛鳥でも可愛いことするんだね」

「やっぱりバカにしてるでしょ!」

彼女が怒って見えるのはやはり照れ隠しのようだ。

「で、行くの行かないの?」



このままずっと寡黙な彼女に振り回されるのもありかもしれない。





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