rak buku

□君に惹かれる
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中学2年の夏
君に出会った季節。


乃木坂46 真夏の全国ツアー
自宅から近い日本ガイシホールや
まだ行きやすい大阪城ホール、神宮球場の
チケットに落選した。

唯一手に入ったのが
宮城・ゼビオアリーナ仙台だった。



僕は両親の制止を振り切り、
仙台への1人旅を決行した。

名古屋から仙台までの夜行バスは
中学生の体にも深刻な影響を及ぼしたのは
今でも鮮明に覚えている。

それは仙台駅東口についた夜行バスを
降りてすぐの事だった。
時刻は8時半ぐらいだったと思う。


まだ時間は早いが
グッズを買うために会場へ向かうことにした。
会場への道順を調べなければ、
そう思いズボンのポケットから
スマホを取り出そうとした。その時



ドン



走ってきた20代のサラリーマンに衝突された。
僕は身長が伸びるのが遅く
あの時はまだ160cmに
少し届かないくらいの身長だったため
そのサラリーマンに
容易に弾き飛ばされ、
手にもちかけていたスマホは
地面を滑っていった。

グシャ

心地の悪い粉砕音と共に
車が駆け抜けて言ったのはその1秒後のことだった。


「…どうしよう」

1人でパニックに陥って、項垂れていた。

スマホを壊して怒られることよりも
乃木坂のライブ会場に行けるかどうかの
心配が強かった。

今になって思えば、
当時デジタルチケットじゃなくて良かった思う。


スマホがなければ、ライブ会場へのアクセスも
ましてやライブ会場の場所さえ分からない。


その時

「大丈夫ですか?」

声を掛けられた。
顔を上げ声の主を探すため左右を見渡す。

「こっちです」

微笑みの混じった声と共に右肩を叩かれた。
後ろを振り返ると、
色白の大きな目と
八重歯の印象的な美少女がそこにいた。

彼女は事の顛末を全て見ていたらしい。
同情で声をかけてくれたのだろうか?
そう思ったが、誰も知らない土地で
声を掛けてくれるだけでもありがたかった。


「乃木坂のライブ行くんですか?」

彼女がそう聞いてきた。
なぜそんなことをとは思ったが、
渡りに船だ、と感じた。

「そうなんですよ
愛知から来たんですけど
スマホがあんな感じなんで
会場に着けるかどうかわかりませんけど」

自分で言いながら少し泣きそうになった。




「よかったら一緒に行きませんか?」

そんな提案をしてくれる、
手を慌ただしく動かしながら話す彼女が
僕には天使に見えたのだった。
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