rak buku

□If I were
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「名前さんって彼女とかいるんですか?」


雑誌の撮影の合間、
4期生に渡すアンケートを作成していると
目の前の席に座っている美月が
そんなことを聞いてきた。


「いると思う?」


手を止めて目だけを
美月の方へ向け、僕は答える。



「まぁわかってて聞いてるんですけど」


美月は興味なさげにスマホをいじり始めた。



僕が叩くキーボードの音だけが
部屋に響いて3分程たった。



「じゃあ私が『好きです』っていったら
付き合ってくれたりします?」


話は終わってなかったらしい。
今度はスマホを片付け
机の上でこちらに身を乗り出し聞いてくる美月。

強い印象を残す大きな目がこちらに向けられている。



「美月、胸元、怒られたんでしょ」



今の美月の体勢は
夏発売の雑誌の衣装でする体勢ではない。

僕がそれを指摘すると


「名前さんなら見せてもいいよ」


なんて言って煽ってくる。


もし僕が
乃木坂のスタッフじゃなかったら
間違いなく美月に釣られていたことだろう。


スタッフの僕でもドキドキしてしまう、
美月はそれくらい魅力的な女の子だ。


「冗談はそれくらいにしとこうね。
マジレスするとさっきのが告白だったら
ちょっと引くかも」


そう言って僕が笑うと
同じように美月も笑った。


「それ4期ちゃん達の個人PVのアンケート?」

ひとしきり笑った後、
美月が僕の背後に立って
PCのモニターを覗き込みながら質問してきた。


「そうだよ、
資料作成のための資料作成のためのアンケート」


僕がふざけて答えると
またしても美月は笑った。


美月の笑顔は
大きな目が綺麗に線になるところが
可愛いといつも思う。


「名前さんはどの個人PVが好きですか?」

僕の両肩に手を置き、聞いてくる美月。


「僕がスタッフになってからのやつだと
くぼしの吸血鬼の奴が1番好きかな
シュール過ぎて」


僕が画面から目を離さずに
笑いながら答えると
僕の両肩に置かれた
美月の手に力が入るのが感じられた。


「もし私が吸血鬼だって言ったら
名前さんの血を吸わせてくれますか?」


「えっ」


僕が驚き、声を出し
返事をする前に僕の首筋に
温もりと少しの痛みを感じた。



驚き過ぎると『絶句する』と言うが
本当に声も出ない程、驚愕したのは
生まれて初めてのことだった。


美月が僕に噛み付いて、(僕が固まって)
1分くらい経った後、
ようやく美月は離れ


「よしっ、充電完了」



そう言ってこちらを振り返らないまま
部屋から出ていってしまった。


1人残された僕は
首に残った歯型とひんやりとした感触に
胸を高鳴らせたのだった。
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