Jendela

□Lightning
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渋谷で乗り換えて
着いた目的地である神社は
地下鉄の階段を登ったすぐ隣にあった。

なんでも昔の中将を祀っているらしい。
そんなことは一人称が
ここに来たことに関係はない。

鳥居をくぐった
1歩目から神域に入ったことが分かる。

都会の朝の喧騒が
嘘のように静まり返っていた。

本殿のある奥へと歩を進める。

そこで礼拝していた少女に
一人称は目と心を奪われた。

「あなたも乃木坂受けるんですか?」

その美少女は一人称の
心中を知ってか知らずか話しかけてきた。

その質問はズバリ一人称が
ここに来た目的を指している。

「はい、なんでわかったんですか?」

聞き返して、改めて彼女の顔を見ると
彼女の顔にも緊張が張り付いている。

一人称だけじゃなかったんだと
ひと安心することが出来た。

「この時間、ここに可愛い子がいたら、ねぇ」

美少女は含みを持たせて発言する。
緊張は以前張り付いたままなので
これが彼女の素なのかもしれない。

彼女はその後、
一人称を見定めるかのように
見ているが嫌な気はしない。


「また会えるといいですね」


彼女はそう言って微笑んだ。





「○○○○番 名字 名前」

「はい」

とりあえず次の審査には残れたみたいだ。


「○✕○✕番 山下 美月」

「はい」

安堵していると
朝、神社で出会った美少女も
名前を呼ばれていた。

山下美月というらしい。

朝とは違って
顔には安堵の色が見える。

一人称も同じなのだろう。


「名前ちゃん」

顔見知りの手前、
話しかけようかかけまいか
悩んでいると山下さんが
一人称を呼び止めた。

「美月ちゃん、おめでとう」

「ありがとう、そっちこそ」

「ありがとう」


お互いに讃え合うと
山下さんは綺麗に笑った。
一瞬、同性の一人称でさえ
クラっときそうになる笑みだった。

あぁこの子はアイドルになる子だ
と直感的に感じられた。

彼女と自分とを比べると
どうしても卑屈になってしまう。







オーディションが進むにつれて
知り合った人達は
どんどん少なくなって行った。

そんな中でも
美月との親交は続いた。

ダンス審査までに
お互いをチェックし合いしたりもしたし
何か有益な情報が入ると
交換したりもした。




最終オーディションの結果が発表された。
一人称はその場で泣き崩れた。

そんな一人称を
美月は優しく包んでくれた。

「一人称がここにいていいのかな?」

周りにいるのは可愛い子ばかりだ。
なんの取り柄もない自分が
残っていいのか不安になった。

「一人称が乃木坂でいいのかな?」

最終オーディションに向かうにつれ
大きくなっていった不安が
発表と同時に堰を切ったように
溢れ出ていた。




「私が一目惚れした
名前なんだから
そんな事言わないの」

美月は数回頭を撫でたあと
背中を軽く叩いてそう告げた。
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